未来:赤の世界
Illust. 小林智美
[ 2015.04.02 掲載 ]
状況
癌の克服や人類の長命化を目的に行われていた遺伝子の研究を悪用し、人類の遺伝情報を書き換えて弱らせる化学兵器が人種間の戦争に使用された未来では、肉体的に脆弱になった人類の寿命が現在の半分程度まで短くなり、世界人口は半減した。
国家を崩壊させた泥沼の戦争は終結したものの人類は滅びの道を歩みつつあった。
化学兵器が世界に蔓延する以前から進められてきた、人類を超える兵士の開発を目的とした《NOAH計画》は凍結されるかに思われたが、プロジェクトのスポンサーである《ハイドラ財団》と《ロイガー・ダイナミクス》は新たに新人類の創造という命題を北九州の研究機関に与えた。
しかし、人類の遺伝情報はすでに書き換えられ使い物にならないため、研究機関は汚染以前の遺伝子を収集し、利用しなくてはならなかった。
やがてそれは世界中の英雄・偉人たちの遺伝子を発掘して集める動機となってゆく。
言うまでもなく、より優秀な遺伝子を手に入れるためだ。
こうして当初の計画にあった強化されたクローン人間《NOAH》が誕生した。
だがある時、研究機関に所属する一人の青年によって、NOAHは単なる強化されたクローンとはまったく異なる新人類《ブレイバー》へと進化する。
交通事故によって亡くした肉親を蘇らせたいという、計画とは異なる目的を隠していた青年の、努力と執念が結実した奇跡だった。
古今東西の魔導書を読破し最終的には《百目鬼》と呼ばれる錬金術師たちの力までをも借りた青年の研究は、もはや科学と呼べるような代物ではなく、遺伝情報を完全に復元した英雄の肉体へ、生前の魂をリンクさせることに成功していた。
なお、器に魂を入れる技術は百目鬼によってもたらされたものであり、落命した場所に縛られている魂の側まで器を運び込み、ある儀式を行う必要があるという。
かくして最初のブレイバーは誕生したが、かつて英雄であった頃の記憶まで蘇ったブレイバーが研究機関の言いなりになるはずもなかった。
脱走した1体のブレイバーの追手として、青年は8体のブレイバーを新たに生み出した。
その後、研究機関は技術を狙う集団によって襲撃を受け、青年も消息不明となった。
しかしながら青年の編み出した技術はハイドラ財団や百目鬼などいくつかの集団に引き継がれ、新たに生み出されたブレイバーたちにより、世界は群雄割拠の時代へ突入する。
ブラックポイントの発生した現代においても、赤の世界では地上を支配するたった一人を決めるための戦いが繰り広げられているという。