CHARACTER

2024.08.27

青の国|アリシア・ジニア・グッドウィル

一点集中型のスーパーメカニック「アリシア・ジニア・グッドウィル」一点集中型のスーパーメカニック「アリシア・ジニア・グッドウィル」

アリシア・ジニア・グッドウィル

プロフィール

アリスって呼ぶなっ! 修理してやんないからな!?

 機械オタクが高じて、赤の国から移住してきたメカニック。

 かつて父に連れられて青の国へ技術交流に訪れた際、偶然出会った巨大ロボットに心惹かれる。その後、自国の機械技師として一人前になるものの、ロボットへの憧れは捨て切れなかった。

 たったひとりの家族である父を残して行けないと葛藤していたが、最終的にはその父に背中を押され、青の国へ移住した。本来の名前は「草百日(したがきももか)」だが、訳あって改名している。

 気難しい父の職人気質を継いで、仕事に対しては非常にストイック。寝食を忘れて作業することがしばしばあり、生活習慣は絶望的。コミュニケーションも苦手分野。

 良く言えば「お人よし」、悪く言えば「押しに弱い」。ただし、上司に付けられた〝アリス〟という愛称だけは断固拒否している。

 相棒の液体金属メルクリウスはアリシアの良き友であり家族。〝メルク〟と呼び親しむ。

 武器や乗り物への変形、戦闘用パワードスーツの強化、果ては巨大ロボットすら掌握して操作、おまけに家事までこなす万能の謎生物である。

アリシア・ジニア・グッドウィル

Name Alicia Zinnia Goodwill
Temper ストイック お人よし
Memo 赤の国からの移住者。
曾祖母が青の国出身。
本人も制御しきれない癖っ毛。
大食いだが偏食家でもある。
Favorite エナジードリンク ジャンクフード
Birth 20歳 ♀
Size 147cm
Job メカニック
Family

メルクリウス

Name Mercurius
Temper 世話焼き 無機物
Memo あらゆるものに変形できる。
ロボットも掌握できる。
アリシアの世話も焼く。
謎の存在。
Favorite 屑鉄
Tribe 液体金属

青の国 : リットラズリ共和国

 ――この国では、科学こそ正義である。

 遠い昔の疫病をきっかけに、病の根絶を目指して科学技術を発展させた。

 効率を最重要視している一方、人類と機械が役割分担する光景こそ日常。退廃した世の中とならないよう、コンピュータが導き出した最適解である。

 科学レベルは文句無しの最高ランク。その先進性に憧れて他国からの移住を希望する者も多く、多国籍文化が形成された。

 政は人類が主導、機械がサポートする形式。全国民からコンピュータに算出された人物が大統領に就任し、残りの全国民を導く独自ルールを採用している。

オーレリア・コバルト・ブルー

オーレリア・コバルト・ブルー

 現・大統領、オーレリア・コバルト・ブルーは戦争ゲームに積極的。

 五つの国のリーダーシップを握るべく、赤の国出身ながらも高度な技術を持つアリシアに期待を寄せる。

 戦争ゲームランキング「1位」(2024.夏時点)

アリシア : はじまりの物語

 それは、草百日(したがきももか)が14歳になったばかりの、ある日のことだった。

 百日にとってただひとりの家族である父に、長期外出の支度をするよう告げられた。

 理由を訊けば、青の国―― リットラズリ共和国との技術交流に、緋命帝国代表の機械技師として招待されたのだと言う。滞在は一週間。家事ができない百日を置いては行けない。〝職を継ぐ意志があるならいい経験になる。一緒に来い〟というのが父の弁だった。

 当然、断る理由はない。幼い頃から家電いじりが好きだった百日は、大喜びで頷いた。

 緋命帝国で一般的に広まっている家電も、元を辿ればリットラズリ共和国の技術。ルーツに触れられることが、なにより楽しみだった。曾祖母が青の国出身という出自も、胸躍らせる要因となったかもしれない。

 かくして、ふたりはリットラズリ共和国に足を踏み入れる。

「……すっげぇ……!」

 瞬く間に感受性豊かな思春期の感情が爆発した。

 緋命帝国には無い、機能的な高層建築。道路を走る自動車ひとつ取っても、緋命のそれとは性能面で格段な差が伺える。極めつけは空飛ぶ巨大な機械人形。「ロボット」と呼ばれるものだと教えられた。

 あらゆるものが機械化されながらも、人は人で忙しそうにしている。両者は共存社会を築いていた。

 まるで目を開けたまま夢を見ているような心地。

 あの感動を、あの高揚を、生涯忘れないだろう。

 観察と記録だけで一週間はあっという間に過ぎ去った。

 名残を惜しむ帰路にて、父の固い手を握った百日はぽつりと呟いた。

「……父さん。いつかアタシにも造れるかな。あんなすっごいものがさ」

 目を細めた父は〝うーん〟と唸ってから口を開く。

「緋命帝国じゃ難しいかもしンねえな」

「……そっか。そうだよな」

 突き付けられた現実に、百日はうなだれた。

 落胆するあまり、隣で父が〝緋命帝国じゃあ、な……〟と重ねたことなど気付きもせず。

◆ ◆ ◆ ◆

 数年が経ち、父の教えで一人前になった百日は、機械技師として働き始めた。工場や研究施設の機械整備と修理が主な仕事だ。

 不満はない。普通に生活していたら出会えない機械と触れられる日々は楽しい。

 それでも、たまに考えてしまう。

「アタシなら、もっと便利に……」

 一度だけ、修理のついでに改良を加えた。

 結論から言えば、するべきではなかった。

 性能は向上したが、誰もその機械を扱えなくなったのである。緋命の技術レベルは百日のリットラズリ的な発想に到底追い付いておらず、端的に機械を扱う担当の経験がものを言う。

 若気の至りと現場は笑って許してくれたが、父にはこっぴどく叱られた。

 以降、どうしても息苦しさが消えない。

「あ~あ……。いつかまた行きたいよな! メルクもそう思うだろ?」

 百日のぼやきに反応し、工具箱の引き出しからぬるりと青い液体が這い出てくる。

 液体金属メルクリウス―― 百日が独学で造り上げた、自分なりの「ロボット」だ。

 まだまだ未完成だが、こうして〝メルク〟という言葉に反応する程度の知性は備わった。

「あのでっかいロボットたちを相手に仕事するんだ。整備して、修理して、たまに改造して……!」

 両腕を広げながら大げさに言うと、メルクリウスも真似をするように全身を広げた。

 その姿に笑った百日だったが、すぐに俯いてしまう。

「……無理だ。父さんは緋命に生涯を捧げてるもんな」

 一家には母がいない。〝家族ではなくなった〟と聞いている。

 男手ひとつで百日を立派に育て上げてくれた父を、これから老いていく父を、ひとりに出来るほど薄情にはなれない。……夢は、叶わない。

 百日はぼんやりと空を見上げる。

 あの日リットラズリで見た青より、ずっと色褪せて見えた。

◆ ◆ ◆ ◆

 鬱屈を抱えながら過ごしていたある日――

「……百日、お前なんか悩んでるだろう」

「へっ?」

 久し振りに父と夕食をともにしていると、唐突に聞かれた。

「……いや、別に?」

「行きてえとこがあるんじゃねえのか?」

「なっ!? なななな、無いよ! なあメルク!!」

 抱えている悩みをピンポイントで射抜かれ、思わず箸を取り落とす百日。話を振られたメルクリウスは丸く変形すると、首を横に振るようにぐるぐると回り始めた。

 父の口元がふっと綻ぶ。

「メルクもああ言ってんじゃねえか」

「い、いや、違うって……!」

「受け取れ」

 どうにか言い逃れようとする百日に差し出されたのは、簡素な封筒。

「……なにこれ?」

「開けてみりゃ分かる」

 入っていたものは――

「リットラズリ共和国の!? な、なんでこんなの……!」

 飛空船チケットだった。

 慌てて父を見やると、さっきまでの笑顔は消え、厳しい職人の表情に戻っていた。

「……百日。お前はよう、緋命帝国の機械技師としては三流だわな。自我が出過ぎてる。機械はあくまで道具。人が扱えねえ代物は欠陥品だ。お前が仕事の隙間にちまちま創ってるもんはな、ここじゃガラクタなんだよ」

「んなっ!?」

 唐突な全否定。かっと頭に血が昇る。

 立ち上がり掛けた百日を、父は〝まあ聞け〟と手で制した。

「お前の自我を活かせるとこに行きゃあ、超一流になれる。だが、ンな場所は緋命にゃねえ」

「それって……」

 父の言わんとすることが分かり、百日の怒りは冷めていった。

「お前の居場所は青の国だ」

 真っすぐに見つめられ、百日は何度も瞬きをする。

 ずっと夢だった。けれど、いざ叶うとなると戸惑いを隠せない。

「……でも、アタシがいなくなったら父さんひとりじゃねえか!」

「ひとりでだって生きていけらぁな。俺を誰だと思ってる。むしろ自分の心配をしろってんだ。家事もロクすっぽ出来ねえくせによぉ」

「うっ」

 なにも言い返せない。

 昔から料理洗濯掃除のすべてが苦手で、料理は父に、掃除と洗濯はほとんど自作の機械に任せていた。

 唯一出来るのは、洗い終わった洗濯物を干すことくらい。

 しばらく唸っていたが、百日はようやく心を決めた。

 父の目を見つめ返す。

「……いいんだな?」

「男に二言はねえよ。いい職人にはいい環境で仕事させてぇしな」

 答える父の表情は、師である機械技師のもの。同時に優しい父のものでもあった。

「ありがとう……」

「ま、たまには顔出せ。そのうちメルクが料理も出来るようになるかもしんねぇが、やっぱそっち方面は不安でしかねぇかんな。徹夜後のドカ食いも程々にしとけよ?」

「善処する……」

「おおっと! 忘れてた。渡航に際し、条件がある」

「な、なんだよ!? ここまで言っておいて!!」

 すでに心は隣国へと旅立っていた百日に、父が釘を刺す。

「あっちで〝草(したがき)〟を名乗るな」

「はあ!? なんでだよ!!」

「ウチの名はそれなりに通ってるからな。ゼロから始めろって話だ。そんくらい根性見せてみやがれ」

「……そういうことか。上等だよ。アタシだって看板に頼るつもりはない。考えてみりゃ〝モモカ〟って名前も舐められそうだ。青の国っぽい名前を考えっか。えーと確かひいばあちゃんの苗字は……」

 新たな名前に考えを巡らせる百日に、父は二本目の釘を刺した。

「あと、渡航手続きはてめえでやれ。本名使えねえのは、ちいとばかし面倒だろうがな!」

「アフターサービス最悪だな!」

 親子の会話を楽しみながら、和やかな夕食の時間は過ぎていく。

◆ ◆ ◆ ◆

 かくして、草百日改めアリシア・ジニア・グッドウィルは、リットラズリ共和国へ籍を移した。

「……うん、出来た。メルク、ちょっと動かしてみてくれるか?」

 アリシアの指示に従い、工具箱から這い出たメルクリウスは、ずるずると巨大ロボットの表面を登る。

 しばらくしてメルクリウスに頭の一部を包み込まれたロボットは、ゆっくりと歩き出した。操縦士が搭乗していないにも関わらず。

 リットラズリ共和国に移住してからおよそ1年。最新技術を以て、アリシアが改良を重ねたメルクリウスは変形の精度を大幅に向上させ、細々とした手伝いから機械の掌握までこなす万能ロボットとなっていた。

 アリシアが修理、あるいは整備した再起動前のロボットを試験的に動かすのも、メルクリウスの仕事だ。

「おー。いい感じいい感じ。関節も大丈夫そうだな」

 しばらく動きを観察していたアリシアは、〝よし〟と頷くと、口に手を当てて大声を出した。

「メルク! もういいぞー! 戻って来ーい!」

 少し間を置いてから、メルクリウスがロボットの表面を伝って降りて来る。

 足元のメルクリウスをつんつんとつついて礼を示すと、アリシアは腕を組んだ。

「派手に壊しといて、3日で直せなんて横暴にも程があるよな。どうせ戦争ゲームの代表に選抜されて気合いが空回りしたんだろうけどさ、もっと大事に扱えっての! 可哀想だろ、まったく」

 眼前の巨大ロボットはいまでこそ新品同様に戻っているものの、数日前は右脚が外れて基盤や配線が剥き出し。ほかにもあらゆる箇所が壊れ、酷い有様となっていた。それをどうにか修理し終えたのだ。

 整備会社に採用されてからというもの、彼女の才能は惜しみなく発揮されていた。

「……ま。壊すやつがいるからアタシみたいのが食えてるわけだけど、複雑な気持ちだよ」

 言うと同時にあくびが出た。2日間、ほとんど寝ていない。限界が近付いている。

 ガレージを出ようと伸びをすると、不意に大声が響いた。

「アリス! 手は空いてるか!?」

「んぁ? ……なんだ。整備長か」

 振り返れば、同様の作業服を着た女性が早足に歩み寄って来る。

 声の主はアリシアが所属する部門のリーダー。いつも無茶苦茶な納期の仕事を笑顔で回して来る相手だ。新生活を始めたアリシアが最も苦手としている人物でもある。

「いい加減その呼び方、やめてくださいよ。お陰で同僚にまで呼ばれる始末なんですからね?」

「アリシアより文字数が少なくて効率的だろう。同名の従業員はいないから判別も容易だ。不都合でも?」

「不都合ってか、従業員は正しい名前で呼んでくださいって! ……そりゃ正しくはねぇけど……」

 整備長はアリシアの出自をある程度把握していた。

 正確にはまんまと誘導尋問にハメられたわけだが、それはまた別の話。

 〝アリス〟という愛称は職人気質の自分には可愛いらし過ぎる。ムズ痒い。

 機械油塗れの世界観には不釣り合いな響きの〝モモカ〟は不要な先入観をもたらしかねないとの考えから、適当に拾ってきたのがアリシアというワード。それが、いままさに本末転倒の事態を招いていた。

「ともかく急ぎの用件だ。手は空いてるんだな? 空いてるな? よし聞け!」

「くっそ! アタシが話術に弱いのをいいことに、なにもかも流しやがる……」

 マイペースな整備長には溜息をつくしかなかった。

「調整は終わったとこなんで空いてますけど。……なんです?」

「話すより見てもらった方が早いな」

 整備長が中空に表示させたディスプレイを操作すると、テキストが映し出された。

「発注メールかなんか? えーと……。〝御社所属のアリシア・ジニア・グッドウィル氏を、戦争ゲームの選手として供出願えないだろうか〟…………。……は?」

 思考も身体も硬直した。

「は? は? は? 待て待て待て。どういうことだ?」

 錯乱気味にアリシアはメールの続きを確認する。

 曰く―― 自身の搭乗するロボットと致命的な痴話喧嘩を起こし、出場不能となった選手が出たとのこと。トラブルを受け、アリシアに白羽の矢が刺さったらしい。

「はぁぁ!? なんだこの理由! どっちかがごめんなさいっつったら済む話じゃんか!」

「そうとも限らんさ。機兵のAIは癖が強いものばかり。こじれると面倒だぞ、やつらは」

「知ってるけど! だとしても! なんでアタシなんだよ!」

「スパコンが弾き出した結論だ。知らん」

 地団駄を踏んでごねるアリシアに、整備長は〝困ったちゃんだな〟と子供を扱うように肩をすくめた。

「とにかくだ。お前にはリットラズリ共和国の代表選手となってもらう。本来の仕事は別のスタッフに割り振るから心配するな。引き継ぎ事項があればメモに残しておくように」

「い、いや整備長! アタシはただの不摂生な機械オタクですよ!? たぶんスパムメールですってこれ!」

「この送信元を見て詐欺と言える胆力は尊敬に値するよ。あと不摂生の自覚があるなら生活習慣を改善しろ」

「うぐっ」

 大統領であるオーレリア・コバルト・ブルーの電子署名が入っていた。もちろん生活習慣改善の提案についても正論過ぎてなにも言い返せない。

「……君の代表選抜については、アリシア・ジニア・グッドウィルを知る者ならば、誰ひとり違和感を抱かないと思うがね?」

「んなわけないですって……。買いかぶりですよ」

「まったく頑固だな。ブルー大統領のお墨付きをこうも信用しないとは……。だが、分かる。分かるぞお。緋命出身なのにリットラズリの代表になれってんだから、戸惑うのも無理はない。なあ、モモ?」

「あぁーっ!? 本名は内緒って約束じゃないですか! ……誰にも聞かれてないよな!?」

「ハハッ。口が滑ったよ。アリスより短くていいと思うんだがな」

 おどけた調子の整備長はアリシアの肩を両手で掴んだ。

「いいか? アリス。次のゲーム開始まであと半月。即戦力は君しかいない」

「即戦力? アタシ、ただのメカニックですからね?」

「いいや。君の明晰な頭脳と蓄積した知識はまごうことなき武器となる。なにせ君の出身地は格闘技の聖地。喧嘩こそせずとも戦い自体は見慣れているだろう?」

「……まあ。それはそうですけど」

 実際、緋命帝国における娯楽は格闘技の興行がほとんどを占めている。

 アリシアも作業のついでに試合の放送を見ることはしばしばあったし、なんとなく戦いのセオリーは知っていた。

「さらに早い安い上手いの優れた整備技術。ロボットと一緒に参加する代表選手も、パワードスーツを使用して参加する代表選手も、君が現地にいればさぞ嬉しいだろうな。なんせ多少の故障なら、誰よりも早く直せるだろうから」

「くっ……。嬉しいこと言ってくれる……」

 なんだかんだ、褒められると弱い。徐々にアリシアは乗せられていく。

「さらに君の相棒である液体金属メルクリウス! 赤青混合の技術の結晶。いまでこそ限られた者しか知らないが、目にすれば誰もが釘付けとなるだろう。〝あれは誰が造ったんだ? あんなすごいものを造れる技術者がいたのか?〟と、どよめくだろう」

「うっ……」

「リットラズリの全国民が、いや、全世界が! 君の素晴らしい技術を見るんだ。そうすれば修理やメンテナンスだけじゃなく、新たなロボットやスーツの設計を任されるかもしれない。将来はそうなりたいんだろう?」

「ううう……!」

 整備長が振るう熱弁に、アリシアは頭を抱えた。

 創る者として、承認欲求が無いわけではない。あまりにも魅力的な言葉だった。

 アリシアが揺れているのを察した整備長は、もう一押しとその肩をぽんと叩く。

「別に負けたってペナルティがあるわけじゃないんだ。技術発表会と割り切ってしまえばいい。もともと戦争ゲームの趣旨はそういった側面も含んでいるしね」

「た、確かにそうだけど! いやでも、戦うのはちょっと……!」

 頷きたい気持ちが6割。戦いへの抵抗が4割。

 悩むアリシアに、とどめの一言が囁かれる。

「君という助けが欲しいから、大統領直々に連絡して来たわけだが。一流の機械技師が期待を裏切るのかい?」

「それ言われると弱いんだよぉ……!」

 アリシアは頼られることになにより弱かった。一気に天秤が傾く。

 こうなったらやけだと腹を括り、〝もおぉ……!〟と叫んだ。

「分かりましたよ! やりますから! 〝あんま期待しないでください〟って先方には伝えてくださいよ!?」

「いやいや。我が社の名声アップに関わる案件だからね。〝自信満々でした〟と伝えておくよ」

「あんたはそういう人だと思ってたよ!!!!」

 見事に口説き落とした整備長は、笑いながらガレージを出て行く。

 その背中が見えなくなってから、静かに崩れ落ちるアリシア。

「まさかこんなことになるなんてな……」

 メルクリウスが身体の一部を伸ばして手のように変形させ、背中をそっと撫でてくれる。

 なんとも言えない感触がくすぐったくて、思わず笑みがこぼれた。

「なんだよ慰めてんのか? 実際、アタシとメルクの技術を披露するいい機会だ。バシッといいとこ見せて、じゃんじゃん仕事を貰おうぜ」

 言葉通りにバシッと両頬を叩き、自身を奮い立たせる。

 アリシアの気合いに呼応するようにメルクリウスが腕に巻き付き、巨大なガントレットへと変形した。

「やる気満々ってか。……あぁ。決まったもんはしょうがねえ。アタシたちはアタシたちなりに、やるか!」