2024.08.28
白の国|リーザ・ブリュンヒルト
最先端医療技術を駆使して人を救う医師「リーザ・ブリュンヒルト」最先端医療技術を駆使して人を救う医師「リーザ・ブリュンヒルト」
プロフィール
安心して。私たち医者は君の味方だからね。
名門十三貴族の一員。代々医療に携わる家系であり、尊敬する両親に倣って医師を目指した。
戦争ゲームの初回から白の国代表として選抜されている実力者。……だったが、幾度目かの出場時。事故に巻き込まれて片目を失ってしまう。この一件は心の傷となり、一時はパニック状態にさえ陥った。
以降は同じような重傷者を出さないため、他国のあらゆる医療を学び、周囲の励ましや精霊「ミニョン」らの助力で快復。いかなる状況にも対応可能な最先端医療技術を身に付けた。
外見に違わずしっかりした大人の女性だが、しっかりし過ぎて実年齢以上の年上と思われがち。
幼い頃から可愛いものが好きで、可愛らしいものを目にすると表情が緩んでしまう。〝頼れるお姉さん〟のイメージを守るために隠しているつもりだが、まったく隠しきれていない。微笑ましく見守られている。
人ならざるものに好かれがちで、特に懐いている3匹の精霊「ミニョン」はいつもリーザの側にいる。
リーザ自身は前線に立たないが、誰かに危機が訪れた場合は、精霊たちと協力して救助へ向かう。
リーザ・ブリュンヒルト
Name | Lisa Brunhild |
Temper | 真面目 平和主義 |
Memo | 争いを好まない。 注射の腕が天才的。 初対面の子供には高確率で怖がられる。 非常に可愛らしい容姿の兄がいる。 |
Favorite | 寿司 緑茶 みかん |
Birth | 25歳 ♀ |
Size | 174cm |
Job | 医師 |
Family | 父 母 兄 |
精霊の子供たち
Name | シアン(犬) フザン(ひよこ) グノン(ハムスター) |
Temper | シアン:おっとり フザン:甘えんぼ グノン:しっかり者 |
Memo | いつも一緒。 リーザから引き離されると落ち込む。 言葉は話せない。 リーザを支える気持ちは人一倍。 |
Favorite | シアン:クッキー フザン:リーザが食べているもの グノン:くるみ |
Tribe | 精霊の子供 |
白の国 : エデルイス公国
――この国では、道徳こそ正義である。
エデルイスは数多くの高山に囲まれ、五つの国で唯一「雪」に全土を覆われた極寒の地。
遠い昔の革命をきっかけに、民の権利と平等性に基づく倫理観を発展させた。培われた騎士道精神で、他国が数々の「天災」に見舞われるたび、幾度も手を差し伸べている。
一方、白の国が第4星界由来の「天災」に見舞われた回数はゼロ。大雑把で陽気な国民性をつくり上げた。
名門十三貴族による議会制が採用されており、それぞれの代表から国民投票で選出された者は「騎士団長」の名乗りを許される。最終決定権は騎士団長にあるが、基本的には十三人による合議制。
Illust. 桃稚ちあ
現・騎士団長、ルイース・クレームは25歳。しかしながら、ひとたび眠りに就くと冬眠したかのように、数日間は目覚めない原因不明の病を患っている。外見年齢や知能は7~9歳程度。
戦争ゲームも〝ゲーム感覚〟で臨んでおり、ティアリの脅しが本物であるとは露ほども考えていない。
騎士団長への選出も「眠り姫」「現役アイドル」という愛らしさと、危機感の薄い国民性に起因する。
戦争ゲームランキング「2位」(2024.夏時点)。
リーザ : はじまりの物語
名門十三貴族のブリュンヒルト家は、武芸よりも医療を重んじる。
ところが、先に生まれた長男は〝僕は剣と盾を持つ。騎士を目指すよ〟と早々にレールを降りた。両親の期待は当たり前のように長女のリーザへのし掛かる。
重責にも関わらず優れた記憶力と勤勉さで期待に応えたリーザは、極めて優秀な医師に成長した。戦争ゲームの代表選手に選抜されたほどである。
もちろん戦闘要員ではなく救護担当としてだが、それがなにより誇らしい。代表に選んでくれた親友「騎士団長」ルイースに報いるため、リーザは懸命に勤しんだ。
戦争ゲームでは死ぬことこそないが、大怪我ならば十分に有り得る。体調を崩すことだってある。あらゆる状況に対応するため、白の国の医療知識を、のべつ幕無しに修得した。
誰もが〝守護神リーザちゃんがいるなら安心して戦える〟と喜んだものだった。
そして――
騎士団長の新曲で戦場の士気が最高潮に達した、とある回の出来事。最終的に怪我を負ったのはたったひとりという〝素晴らしい〟戦果。白の国が快勝をもぎ取ったあの日の悪夢は、誰もが忘れない。
意識不明の重体となって病院へ運び込まれた唯一の人物は、リーザ。
黒の国の代表選手が己の力を誇示するために放った、恐るべき大魔法の直撃を受けた。
ルール違反ではない。誰も悪くない。強いて言うなら白の国の全員が悪い。
彼女の危機を察知した騎士がいたなら、カバー出来たかもしれない。
医師はリーザひとりで十分という慢心が無ければ、ほかの誰かが応急処置を施せた。
ティアリの加護が無ければ、即死――
歌姫として仲間を鼓舞する幼き騎士団長は、顔面蒼白となって崩折れた。
国民の誰もが愛してやまない騎士団長の動揺ぶりに、いつも陽気な白の国の国民たちは祝勝会を自粛。
――後日。リーザは目を覚ました。
「あはは。心配掛けたね。……でも、ダメそうだよ。両親も手を尽くしてくれたんだが」
「……そうか。わるかった、わがともよ」
「謝ることはない。ルイースは自分の仕事をしていたよ。後ろから見てたからね」
頭を下げる〝幼き同い年〟の騎士団長ルイースに、リーザは苦笑いを返す。
魔法の影響かもしれない。少なくとも白の世界の医療技術だけでは治せなかった。包帯が外される日が来ても、元に戻りそうもない。
心には深い傷が、右目には暗闇が残った。
◆ ◆ ◆ ◆
診察室には幼い泣き声が響いている。
「うわああああん! 注射やだあ!」
「よーしよしよし。泣かない泣かない。大丈夫。注射は痛くないからね」
「やーだー! かえるぅう! ばかぁぁぁぁああああ!」
なだめようと微笑むリーザに反抗し、母親の膝でじたばた暴れる幼い患者。
珍しい光景ではないが、子供によってあやし方は異なる。
笑顔を崩さないまま、リーザはどうするべきか経験則から導き出す。ひとまず机に置いたくまのぬいぐるみを手に取った。
「ほ~ら! 見てごらん? くまちゃんも応援してるよ~」
「やだぁぁぁぁぁああああ!」
「こほん。……ダイジョウブダヨッ! ボクガツイテルヨッ!」
「…………」
調子の外れた裏声で、ぬいぐるみの応援を演じたリーザ。
驚いたのか子供の泣き声が一瞬止まり、母親もなにも言わない。気まずい沈黙が流れたのち――
「やだあああああああああ!!」
「あっ……。あぁ~……。参ったな」
再び子供は号泣し始めた。
暴れる手足をどうにか押さえながら、疲れた顔の母親が頭を下げる。
「すみません、リーザ先生……」
「いまのは上手く出来たと思ったんですが……」
「そ、そう……。ですね! ええ。とっても。その……。お上手でした!!」
演技力に寸分の疑いも持っていないと察した母親は視線を逸らす。
一方でリーザは次の対応に移っていた。あとにも患者は控えている。時間を浪費出来ない。
「本業を手伝わせるのは避けていたが、この際仕方がない。みんなおいで。手伝ってくれるかな?」
〝ぱん〟と手を打ち鳴らすと、白衣の内側からふよふよと小さななにかが現れた。
泣き喚く子供の視線が集中する。
「ぐすっ……。なぁに? わんちゃん? あっ。ぴよぴよも……」
「この子たちは先生の〝おともだち〟なんだ。隠れて君を見ていたら、遊んで欲しくなったんだって。どうかな?」
「おともだち……。ひっく。あそぶぅ……」
周囲を小さな羽で飛び回る3匹の小動物―― リーザに付き従う精霊「ミニョン」たちに、子供は真っ赤に腫らした目を釘付けにした。
「……お母様。そちらの手を離してください」
「あっ。……はい!」
「りすもいる! 待って!」
小声で囁きかけ、押さえられていた両手のうち、片方だけを敢えて解放させる。案の定、子供は精霊たちを自由になった手と目で追い掛けた。
リーザはその隙に、まだ母親が押さえている腕に注射を打つ。
「はい! 終わったよ。我慢出来て偉かった!」
にこにこと褒めるリーザ。呆気に取られる子供。
「……あぇ? いまお注射したの?」
「そうよ。気付かなかったでしょ? リーザ先生はやっぱり――」
母親が〝凄い〟と言い終えるよりも早く、大きな瞳にみるみる涙が溜まってゆく。
これは泣く。ふたりがそう思ったと同時に、甲高い大音響が響き渡った。
「うぁぁぁぁああああん! やだって言ったぁぁぁぁああああ!」
「あれー……? 痛くなかったと思うんだけどな……?」
「す、すみません! すみません!」
痛い痛くないではなく、注射自体が許せなかったらしい。
またも激しく泣き出した子供を抱き上げ、母親は何度も謝罪しながら診察室を出て行く。子供が怖がらないよう最後まで笑顔で手を振り、見送った。
診察室に静寂が戻り、リーザは大きくため息をつく。
「……また泣かせてしまった。子供は可愛いけど、やっぱり難しいね」
ぽつぽつと反省を口にするリーザの側に、精霊たちが寄ってくる。
1匹は手にすりすりと身体を寄せ、もう1匹は頭の上に陣取り、最後の1匹は肩に乗った。それぞれの定位置で、どうやら慰めてくれているらしい3匹に、思わず口元が緩んでしまう。
「あはは。ありがとう。……よし! まだまだ患者さんはいるんだ。頑張らないと」
気合を入れ直したリーザは姿勢を正し、診察室のドアの向こうに大きく呼びかけた。
「次の方、どうぞ!」
◆ ◆ ◆ ◆
ようやく午前の診療を終え、ほんの数十分の昼休憩に入ったリーザは、院内の私室へと引っ込んでいた。
もちろん自宅は別にあるが、緊急の患者がいれば院内で一日を終える場合もある。初めこそ休憩室だったその部屋には、次第に私物が持ち込まれ、第二の自室と化していた。
「お疲れ様。たくさん手伝ってもらったね」
白衣の中から顔を覗かせた2匹の精霊―― ひよこのフザンとハムスターのグノンの小さな頭を指で撫で、ほっと一息つく。
「忙しいのはいいことだ。……半分くらいは、空調目当てのご老体ばかりだけれど。凍えんばかりの白の国の寒さに、院内の隅々まで行き届いた青の国の空調設備は神だからね。ついでに健康診断が出来るから、来てくれるだけでも有り難いと考えよう。お陰で病気の早期発見に至った患者もいることだし」
リーザの病院には、身銭を切って他国から輸入した機材や技術が数多く詰まっている。
例えば「エアコン」は電気が通ってないエデルイス公国では本来使えない。わざわざリットラズリ共和国から発電機ごと持ち込み、患者にとって快適な空間を完成させたのである。
しばらくフザンとグノンに構っていたところで、ふと気付く。
いつもいるはずのもう1匹―― 犬のシアンがいない。
「……あれ? シアンがいないな。フザン、グノン、どこに行ったか知ってる?」
リーザに聞かれたグノンは、丸々として振る首がないフザンの代わりに首を横に振った。
基本的に3匹とリーザはいつも一緒なのだが。
「どこに行ってしまったんだろう……。遠くに行ってないといいんだけど」
心配して呟いたとほぼ同時に、目の前の窓がかたかたと揺れた。
視線を向けると、窓ガラスに白い塊が何度もぶつかっている。まぎれもなく、いままさに話していたシアンだった。封筒をくわえ、何度も必死に頭突きしている。……つもりらしい。
「外にいたんだね。ちょっと待って……。よっと」
腕を伸ばし、窓を開けた。シアンはなにやら焦っている様子だ。
リーザは〝相手を見ること〟に長けていた。神が与えた才能かもしれない。
顔を見れば、どこかに不調があると分かる。動きを見れば、どこを病んでいるかが分かる。
兄が母の腹に忘れてきた才能を全部拾い集めて来てくれたのだと、ほかならぬ兄本人から何度も褒められたのをよく覚えている。ちなみに兄は自分よりも身長が低い。ありていに言って可愛い。
危うく緩みそうになった頬を引き締め、転がるように部屋へ転がり込んだシアンから封筒を受け取った。
精霊なのだから本来は壁や窓など簡単に通り抜けられるはずなのだが、彼らはまだ幼く、目に見えるものに惑わされがちのようだった。
「手紙……? ああ。そうか。……もうそんな時期なのか」
僅かに首を傾げたが、見慣れた紋章が描かれた封筒を見て内容を察した。
美しい金で箔押しされているのは、エデルイス公国騎士団のクレーム家の紋章。愛すべき親友からの書簡だ。この時期の連絡と言えば、心当たりはひとつしかない。戦争ゲームへの参加要請だ。
封を開け、文書に目を通す。十三貴族代表の誰かが書いたのだろう達筆の下に、稚拙な字で〝リーザのかつやくきたいしているぞ!〟という文章が、ルイース・クレームの署名とともに書き添えられている。
「失態を重ねた私なんかを、また招集するとはな。……騎士団長は相当に私を信頼してくれている。もっとも、想いの強さなら私も負けているつもりはないが。次こそ……」
無意識にリーザの表情がこわばる。すぐに3匹が、リーザの頬や頭に身を寄せた。
「……心配をかけてしまったね。大丈夫だよ。あの事故からはこれで2回目。……君たちのおかげで怖いのももう無くなったしね」
ゆっくりと瞼を閉じて呟く。
初めて参加した戦争ゲームのあと、リハビリを終えたリーザは他国の医療技術も学び始めた。
視力を取り戻すのも目的のひとつだが、それ以上に、自分の無力さを悔やんだ。あらゆる知識を身に付けたつもりだったのに、まだまだ足りない。心も身体も癒せる万能薬になりたいと願った。
最初に訪れた緑の国ことレヴリヴェール王国で、シアンたちと邂逅。患者の回復力を向上させる精霊癒術を身に着けた。
異常な速度であらゆる医療技術を身に付けていくリーザは、いまやエデルイス公国史上最高の名医として知られている。だから、のちの戦争ゲームにおいて、再度の招集が掛かるのは自然の流れ。以前と異なるのはリーザ単独ではなく「医療チーム」となったこと。
リーザも喜んで請けた。今度は上手くやる。怪我人は即座に治療する。もちろん自分の身も守る。
だが―― 心の傷は思いのほか深かった。
戦闘が起きていない場所ではいつも通りに動けたが、剣戟の音や大声が響くと途端に身体が硬直する。患者を落ち着かせなければならないのに、リーザ本人が訳の分からないことを口走ってしまう。
大怪我をする選手はいなかったが幸運だっただけ。自信を喪失するには十分だった。
なにも出来なかった無力感に苛まれるリーザに、シアン・フザン・グノンの3匹が寄り添い続けてくれなければ、きっと心の傷が癒える日は来なかっただろう。
二度目の他国訪問は赤の国こと緋命帝国。連日、激戦に身を置く格闘技団体の専属医師となり、彼らはもちろん自身の〝荒療治〟も行った。
「……だから、今度は、今度こそは大丈夫。シアンもフザンもグノンも、一緒に来てくれると嬉しいな。臆病者の私に勇気を分けて欲しい」
対する3匹は、各々小さな身体で胸を張ったり尻尾を振ったり吠えてみたり。〝任せて!〟と言いたげな素振りを見せた。
その姿が可愛らしく、〝ふふ。君たちは本当に可愛いねえ〟とまた口元が緩む。
「ありがとうね」
しばらく両手で精霊たちをもふもふと撫でていたリーザだが、ふっとその表情を真面目なものに戻した。
「怪我人は出させない。みんな五体満足。隣国の選手も別け隔てなく。誰もなんの憂いもなく帰す。……ルイースの笑顔を守るためにも!」
親友のルイース・クレームは同い年の幼馴染だが、眠り病を患っている。一般人の1/3ほどの成長スピードで、同じ時間を過ごしたはずなのに、どう見てもまだ子供だ。戦争ゲームについても楽しい遊戯と認識している節がある。……事実その通りなのだが。
ルイースはリーザが重体となったあの時こそ酷く悲しんだが、視力以外を取り戻したいまとなってはケロッとしている。……だが、それでいい。トラウマを負うのは自分だけでいい。
子供の笑顔を愛するリーザは、彼女の笑顔を二度と曇らせたくなかった。
「また勉強しなければね。私の視力もだが、ルイースの病もなんとかしてあげたい。全部解決したらあの子はきっと満面の笑顔で……。えへへ。えへへへへへへぇ。……っと! まずは今日の診療をこなさなくちゃな。お昼も食べないと」
にやついた顔を素に戻しつつ、用意していたサンドイッチに手を伸ばす。腕時計が視線に入った。
昼休みの終わりまで、あと2分しか無い。
「どんだけルイースの笑顔で妄想してたんだ、私は!」
リーザは大慌てでサンドイッチを口に詰め込んだ。