2022.11.02 【 2023.02.21 update 】
英雄達の戦記LV
登場人物に提示される運命の分かれ道。あなたの行動次第で未来が変わる!登場人物に提示される運命の分かれ道。あなたの行動次第で未来が変わる!
2022年11月から2023年2月にかけて開催される「ゼクストリーム 2022.WINTER」では、ストーリー分岐型イベント「英雄達の戦記LV」が5回に分けて開催されます。
イベント会場でのランブル戦参加や、Twitterで出題されるクイズに正解し、〝あなたが望むストーリー展開〟へ投票しましょう。
No | 開催日時 | タイトル | 参加形式 |
---|---|---|---|
1 | 2022年11月5日(土) | 初戦「怒れる真竜」 | イベント会場(東京),Twitter |
2 | 2022年12月17日(土) | 第二戦「復讐の輪廻」 | イベント会場(大阪),Twitter |
3 | 2023年1月20日(金) | 第三戦「まっさらな景色」 | |
4 | 2023年2月10日(金) | 第四戦「最初の一葉」 | |
5 | 2023年2月23日(木祝) | 最終戦「彼方の明日」 | イベント会場(名古屋),Twitter |
01 初戦「怒れる真竜」
東京会場のイベントは終了しました。
Illust:藤真拓哉、TAPI岡
開催日時
2022年11月5日(土)
参加形式
影響・大:ランブル戦参加(東京会場)
影響・小:キャラクタークイズ(Twitter)
ストーリー
黒の世界を訪れた怜亜たちは竜の姫君と邂逅し、互いの身の上を明かした。
フレンドリーな怜亜に気を許した竜の姫君が悩みを打ち明ける。険悪な関係にある五つの世界を【融和】させ、平和へ導きたいが、なかなか賛同を得らないことについてである。
「五つの世界をひとつにしたいんだ? 実現したらすごいね! けど、焦っちゃダメだよ。正義はひとつだけじゃないんだ」
極めて壮大で現実味のない話にも関わらず、怜亜は笑顔で答えた。続けて超や七尾もそれぞれの意見を披露する。その内容は三者三様、まるきり異なっていた。
竜の姫君はこれまで、穢れの浄化を求める安倍晴明や全一を目指す大樹ユグドラシルへ【融和】を働きかけるなどしている。さらに遡れば、活動を開始するにあたって天使を依代にした。〝正義はひとつじゃない〟と言われ、ほかに選択の余地は無かったかを想像している。結果、いまになって迷いが生じた。
竜の姫君の表情が曇ったのを見逃さず、大和が気遣いの言葉を投げ掛ける。
「なにをしでかしたのか知らんが敢えて言おう。理想の押し付けは独善の極み! ……失敗は誰にでもある。気に病むな」
「☆☆★★☆ ★★☆★★ ☆☆★ ★☆★☆☆ ★★ ★☆ ☆★☆☆★ ★★☆★★ ★☆★★ ★☆★☆★ ★☆★★ ★★ ☆★☆☆☆ ★☆★★ ★★ ☆☆☆☆ ☆☆★ ★☆★★ ☆★ ☆★★☆ ★★☆★ ★★☆ ☆☆ ☆☆★☆ ☆★☆ ★☆★★ ☆★☆☆★ ☆★☆ ★☆★★ ☆★☆☆★」
大和の意見にシンクロトロンも同意した。
「いい人ばかり。だから、いますぐ平和にしたいのにやっぱり誰も分かって……」
そして、竜の姫君はついに気付くこととなる。
「違う。わたしが分かろうとしてなかった」
「僕だって雷鳥や獅子島さん、ローレンシウムのなにもかもは知らない。だから、友達になるんだ。君もだよ、ヒメちゃん!」
「勝手に俺を巻き込むな」
「〝ヒメちゃん〟……? ともだち……。友達」
怜亜に手を握られ、胸を高鳴らせる竜の姫君。言葉の意味を反芻し、問い返す。
「……あ、あの! もしもだよ? もし、平和のために犠牲が必要だとしたら、みんなならどうする?」
「犠牲になんてしないよ」
即答する怜亜に竜の姫君が苦言を呈した。
「ずるはダメだよ。犠牲は絶対に必要なの!」
「そんなの勝手に思い込んでるだけだろ。僕は全部救ってみせる!」
「〝全部救う〟!?」
あまりに子供じみた発想に超は溜息をついたが、竜の姫君にとっては思いもよらない回答だった。
「すごいね! カッコいい! ……そっか。片方じゃなくていいんだ。もっと早く知りたかったな……」
・ ・ ・ ・
「HAHAHA! 姫君女史は世間知らずだな!」
「うう。わたしって、そうなんだ……」
「ノンノン。ノープロブレム。何故なら、とても賢い私とて未だに世間知らずだからさ!」
「ローレンシウムは世間知らずじゃなくて、ふてぶてしいだけデース」
「おおっと。レーベ女史は手厳しい!」
竜の姫君は他人の意見に耳を傾けることから、真の対話が生まれると知った。その楽しさを知った。
他愛無い雑談に花を咲かせる面々の元へ、一度は別れたアニムスが戻って来る。
「あれ。おまえ、実家に帰ったんじゃないのか?」
「そうするつもりだったんだけど、何故だか帰り道を思い出せなくて。どんな場所なのかさえ」
「おいおい大丈夫か? 住処を忘れるなんて、普通はあり得んだろう」
「死の前兆ね」
大和とクレプスが本心からの心配と皮肉を口にした。
「身体の調子はいつも通りだし、精神攻撃を受けてる気配もない。大丈夫だし死なないよ」
「それならいいが、無理をするなよ? 不自然な事象であることは明らかだ」
漠然と会話を聞いていた竜の姫君が、はっとなる。
「……わたしのせいかも」
比較的温厚なゼクスがひっそり暮らしている土地であると、知る人ぞ知る【墓城】エリア。
彼の地は既に地上から消され、〝最初から存在しない〟扱いとなっている。隔離され独立した状態の維持を望むが故、【融和】思想に賛同しない【墓城】の人々を悪と断じた、紛うことなき竜の姫君の仕業だった。
「アニムスさんのおうちを、もしかしたらもっと広い範囲を、わたしが星界送りにしちゃったのかも。……ううん。不自然に思い出せないなら、疑いようもない。……ごめんなさい。ごめんなさい! すぐ、元に戻すから!」
竜の姫君が虚数領域へアクセスを試みる。彼女自身もサルベージ対象【墓城】に関する記憶を無くしているため、難航が予想される。……だが、事態はさらに深刻だった。
本来であれば感覚的に行える虚数領域へのアクセスが通らない。権限が失われていた。
「あれ? なんでだろう? エラーになっちゃう」
「私のおうちは気にしなくていいよ。大和やクレプスといるのも、それなりに楽しいから」
「そうは言っても、たぶんアニムスさん以外にも迷惑かけちゃってるし……」
困惑する竜の姫君を大きな影が覆った。
直後、飛来した何者かが巻き起こした突風に、彼女が吹き飛ばされる。
「きゃっ!」
「ヒメちゃん!」
「……許さぬ」
それは巨大な生物の羽ばたき。上空を舞っているのは、雄々しくも威厳あふれる大型ゼクス。彼らが初めて遭遇するトゥルードラゴンだった。
「ドラゴンだと!? うおおおおおおお!!!!!」
「貴方は黙っているべきね、ル・シエル」
無邪気に興奮する大和にクレプスが釘を刺す。
口端から灼熱のブレスを漏れ出させるドラゴンは、溜め込んだ怒りを露わにした。
「よくも……。よくも『黎明』を消し去ってくれたなッ!!」
「『黎明』ってなんだろう。頭に引っ掛かってる。エ、ン……。エン……。エン、キ……。そうだ、エンキさんのこと? エンキさんを星界送りにしたのは、エンキさんが望んだからだよ!?」
姫君の言葉に偽りはない。彼の消滅に関してだけは、彼自身が望んだことだった。
だが、数々の過ちに気付かされた竜の姫君にとって、かつての自分自身ほど、信用に値しないものはない。
「……ううん。きっとわたしが判断を間違ったんだね」
竜の姫君はラストゼオレムを見上げた。
「わたしはどうしたらいい?」
「言うまでもない。星界を彷徨っているであろう『黎明』を解放してもらう」
「それは……。出来ないよ。出来なくなっちゃったの。だから待って! 時間をちょうだい!」
ラストゼオレムの怒気が膨れ上がった。
「残されし時間は僅か。もはや成す術無し。間もなく『黎明』は我が記憶から消える。泡沫となるだろう。当事者の貴様がすでに忘れかけていたようにな……。ならば我は望む。貴様の死を!」
竜の姫君は首を振った。
「ごめんなさい。わたしは自分がしてきた間違いを、ひとつずつ遡って正さなくちゃいけない。あなたの望みを叶えるなら、すべてが済んだ後になる」
「苦し紛れの言い逃れを、我が認めると思うか!? 消え失せろ!!」
「……そう、だよね。そう聞こえるよね。けど、わたしだって黙ってやられたりはしないよ。想いを伝えるために戦う。死にたくないから戦うの!」
ラストゼオレムが吹きかけた紅いブレスに対し、小柄なアストラルドラコが蒼いブレスを吹きかける。炎は相殺された。
「ありがとう、ドラコ」
「うおおおおおおお! 見たかいまのおい! 紅蓮と蒼碧のドラゴンブレスがクロスブレイクしたぞ! 超少年!!!!」
「煩い黙れ話し掛けるな22歳」
「こうしちゃいられない。僕たちもあのドラゴンと戦おう!」
ラストゼオレムの前へ駆け出そうとした怜亜を、竜の姫君が制した。
「だめだよ。これはわたしの問題。わたしがけじめをつけなくちゃいけないの」
「けど! あんな強そうなドラゴンに叶いっこないよ! そんなちっちゃい竜だけじゃ!」
「ドラコは星界からずっと一緒にいるの。わたしの一部みたいなもの。けど、怜亜君たちは違う。会ったばかりだもん。だから手を出さないで。わたしは大丈夫だから」
「冷静になれ、戦斗。俺たちは傍観に徹するべきだ。なによりあいつ自身が過ちを認めている。正義が真竜の下にあるのは明らかだ」
「うぐっ。正義か……」
冷徹な判断を下す超の意見に、怜亜が次の言葉を言い淀んだ。
超は邪竜と戦った経験を持つ。その強さを知るが故、いきなり黒の世界へ飛ばされて今後の見通しも立たない状況下で、回避可能な危険に首を突っ込む訳にはいかない。
「ワタシはヒメちゃんの助太刀したいデース……」
「……大人の意見を聞きたい。天王寺さんはどうするべきだと思いますか?」
「何故俺は魔王時代に竜を従えなかったのだあああああああッ!!」
怜亜は血涙を流して悔しがる大和を仰ぎ見た。
真剣な眼差しに気付き、大和が自我を取り戻す。
「悪い。少々取り乱していたようだ。悩める怜亜少年へ先達の助言をくれてやろう」
「さっきのもいまのも、全部本音で言ってるし、演技無しなんだからすごいよね」
「腐っても魔王の器だもの。……いつかまた」
アニムスとクレプスが囁き合うのも構わず、大和は怜亜に告げた。
「正義がひとつじゃないように、正解はひとつじゃない。……星界だけにな!」
「訊かなきゃ良かった」
「けど、正解がひとつじゃないのは一理あるデース」
「どうせ俺たちは一蓮托生だ。戦斗、おまえが決めろ」
・ ・ ・ ・
「僕は全部救いたい。助けたい! ……だけど、自分の間違いに向かい合おうとしているヒメちゃんの邪魔をしちゃいけない気もする。そもそも、ヒメちゃんの味方をしたらドラゴンさんの怒りは、気持ちは、どうなるんだ?」
猛り狂うラストゼオレムの勢いに、竜の姫君は押され気味となっていた。
「僕は、僕は……!」
運命の分岐
A:怜亜たちが竜の姫君を助ける
展開 | 【友情展開】です。竜の姫君が勝利します。ラストゼオレムの怒りは収まらず、始まりの竜の巫女エアは竜の姫君を敵視します。 |
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結果反映 | 「竜の姫君」イラストの新規カード制作 |
会場票(725)+Twitter票(663)=1,388pt
B:怜亜たちは竜の姫君を助太刀せず見守る
展開 | 【正義展開】です。ラストゼオレムが勝利します。竜の姫君は怪我を負いますが、始まりの竜の巫女エアが竜の姫君に理解を示します。 |
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結果反映 | 「始まりの竜の巫女エア」イラストの新規カード制作 |
会場票(1,250)+Twitter票(785)=2,035pt
「B展開」に決定しました!
02 第二戦「復讐の輪廻」
大阪会場のイベントは終了しました。
Illust:吟、緋色雪、和錆/工画堂スタジオ
開催日時
2022年12月17日(土)
参加形式
影響・大:ランブル戦参加(大阪会場)
影響・小:キャラクタークイズ(Twitter)
ストーリー
白の世界を訪れた綾瀬、飛鳥、出雲、それぞれのパートナーゼクスたち。
不可視の斬撃(虚のさざなみ)に翻弄された彼らは酷く疲弊していた。ただひとり平常心を保つことが出来た飛鳥が天高くウリエルの剣を掲げると、瞬間、一条の光が雲を突き抜ける。
しばらくし、数名のエンジェルが飛来した。巡回中に救難信号代わりの聖なる光を発見したためである。
「あれっ? 誰かと思えばウリエル様そっくりのオススメ人材だよ」
「僕のこと知っとるなら話が早いな。訳あってさっきここに辿り着いたんやけど、どこからか飛んで来るかまいたちみたいな斬撃に襲われてな。避難できる場所があれば案内してくれんか、可愛らしい天使さん?」
「……飛鳥?」
「普通に挨拶しただけやろ!? なして圧掛けてくるん、フィエリテはん!?」
「天王寺飛鳥クン、だよね。会えて光栄だよ。私は男女の恋を応援し、愛の成就を願う天使モテッツ! せっかく来たのに〝晴れ時々斬撃〟な天気でごめんね! 天魔神を倒した英雄でも、あれには手を焼くんだ?」
「服はズタボロにされるし、なんもかんもすり抜けて来るからな」
飛鳥は特にダメージの大きい綾瀬と出雲を振り返った。
「ジロジロ見ないでよ。……変態!」
「じろじろは見とらんけど!?」
飛鳥と綾瀬は白の世界を追い詰めた天魔神ガムビエルを討ち果たした人物であり、一部の天使と守護者はその事実を知らされている。
天使モテッツは聖なる光や来訪者についての報告をほかのエンジェルに任せると、疲労困憊の面々を労るため、白の世界で話題の喫茶店を紹介した。
【 Cait Sith Cafe ~癒やしの猫喫茶~ 】と書かれた看板を指差し、出雲がモテッツに尋ねる。
「こちらはどのようなお店なのですか?」
「にゃんこに擬態したケット・シーがお客さんに媚びを売る喫茶店だよ」
「にゃんこ? 媚びを売る? ……悪徳商法の匂いがしますね」
「身も蓋もない説明だったけれど、似たようなお店は現代にもあったはずよ。恐らく大丈夫」
「そうですか。ガーンデーヴァがそう言うのならば」
出雲は抜きかけた刀を鞘に収めた。
「人間でありながら栄誉ある【 虹天使 】の称号を得た、ニーナ・シトリー様が店長なんだよ」
「あのニーナちゃんか! ついさっきまで一緒やったけど別れてもうた」
「ウリエル様にそっくりなイケメンさんは、いろんな女の子を取っ替え引っ替えしてるんだね?」
「僕の後ろにおる人たちが怖いから、誤解を招く発言はやめといてな?」
モテッツを先頭に飛鳥、綾瀬、出雲、フィエリテ、ガーンデーヴァが小洒落た店の入口をくぐる。獰猛な黒豹であり身体も大きいズィーガーは正面から入れず、悪態をつきながら搬入口から回り込んだ。
来客に気付き、萌黄色の髪が印象的なウェイトレスらしき少女が振り返った。
「わわ。な、なんかいっぱい来た……。いらっしゃいませ、ケット・シーカフェへようこそ!」
瞬間、少女が身体を硬直させる。
「……って」
「あんた、まさか」
「殺気を感じねェから油断したぜ。コイツ……」
「上柚木綾瀬さんです!?」
「ガムビエルじゃねェか! 綾瀬と合体した俺様がトドメ刺しただろ!?」
「ええ。裁きを受けて光へ還ったはずです。最後の一撃は私と飛鳥でしたが」
「あンだとクソ天使!?」
「どっちでもええわ! そうや。確かに僕らが倒した。……けど、白の世界ならあり得ん話でもないか」
腕を組んで納得顔の飛鳥に、モテッツがうんうんと頷く。
「彼女は双極天使ミカエルの慈悲を受け、再光臨を許されたガムビエルの転生体だね。だから緊張しなくていいよ。〝ガムビエルちゃん〟っていう別人だから」
説明は続いた。
いわく、悪逆を尽くした天魔神ガムビエルの記憶はなく、前世とは真逆の善良な性格になっていること。自身が犯した罪を知り、贖罪の道を選んだこと。因縁深い綾瀬と飛鳥に関する様々な個人情報についても、ミカエルみずから懇切丁寧に伝えている。……とのことだった。
説明を終えたモテッツはガーンデーヴァの手を引いて、客席へ向かう。
「積もる話もあるよね? 私はガーンデーヴァさんと乙女の内緒話してるから、ごゆっくり!」
「ええっ!? モテッツさん待って! わわ、私だけじゃ気まずいですっ!! ……行っちゃいました。えっと。今更ですけど、上柚木綾瀬さんで合ってますよね? が、ガムビエルです! ……えへへ」
ガムビエルのぎこちない愛想笑いに、綾瀬の表情が驚愕から困惑へ、困惑から怒りへと変わってゆく。
「ボクは白の世界に対しても、上柚木綾瀬さんに対しても、取り返しのつかない悪逆非道を働きました。こうして話し掛けることも失礼なのかもしれませんが……」
「……そうね。顔も見たくないし、声だって聞きたくない。つくづく厄日ね。恋だの愛だの鬱陶しい天使が〝お薦め〟って言うから来てみれば……」
「呼んだ?」
「呼んでない」
ガーンデーヴァに【 デートに最適なおすすめメニュー 】を教えていたモテッツが座席から身を乗り出したが、綾瀬の即答を受け、メニューとにらめっこして顔を赤らめているガーンデーヴァの隣に座り直した。
「それで私は〝久しぶり〟って言えばいいのかしら?」
「ご、ごめんなさい! うっかり遭遇しちゃってごめんなさい!」
「調子狂うから謝らないで。叶うなら、二度と会いたく……。会わなかったことにしたい。いっそ記憶から消してしまえれば――」
「いや! ほら! ガムビエルちゃんもこうして社会貢献しとる。せやから過去を水に流せいうんは無理でも……」
「……はい。おっしゃる通りです。謝って済むものではありません」
間を取り持とうとした飛鳥、言葉を失った綾瀬、いたたまれないガムビエルの間に、短いような長いような沈黙が流れた。
最悪の空気に耐えられなくなったガムビエルが声高に言い放つ。
「ご、ご注文は! にゃんこでも承れますので! 良ければゆっくりしていってください! ……ボクはバックルームに消えます。目障りだと思いますので……」
失意の表情を浮かべたガムビエルが店の奥へ立ち去った。
「拍子抜けやね。すっかり変わっとった」
「…………」
「綾瀬ちゃん? あかん。ぼーっとしとるわ。刺激が強すぎたのかもしれん。別の店に変えよか?」
「斬撃の影響から、綾瀬は回復しきっていないのではありませんか? 人間はか弱い生き物ですから」
「それにしちゃァ、断罪野郎はピンピンしてるじゃねェか」
「はい。時間の経過につれて気力体力とも回復しています。現在は不自由ありません。ところで……」
出雲が飛鳥にそっと耳打ちする。
「先程の、ガムビエルさんとの関係をお伺いしても?」
「えーとな。綾瀬ちゃんのご両親の、なんていうか……。仇やね。ほかにもアカンことぎょうさんしとってな。綾瀬ちゃんと僕らで倒したんやけど、知らん間に転生しとったみたいや。前世の記憶も無いみたいやし、性格もまるで別人やったけど」
「なるほど。断罪したと思っていたら、し損ねていた。反省の気持ちはあるが、罪科を覚えていなかった。……というわけですね」
「言うとくけど、も一度断罪すればええって話とちゃうで?」
「当たり前です。飛鳥君は私を【 聞く耳持たない断罪マシーン 】だとでも思ってるんですか? ……ともあれ、概ね理解しました。部外者が口出しするのはやめます。ですが、意見や助力が必要な時は頼ってください」
「おおきに。……ゆうて、僕も基本的には部外者なんやけど」
「何故です? 飛鳥君と綾瀬さんは――」
「私とコイツが、なんだって言うのかしら?」
出雲の言葉を遮る低い声。
薄笑いを浮かべた綾瀬が、飛鳥の首根っこを掴んでいた。
「はい! すみませんでした! べらべらしゃべってもうて、なんかすんまへん!」
「……ハァ。私なら平気よ。流石に少しばかり動揺したけどね。あいつは私が憎んだガムビエルとは別物。ついでに言うとニーナも別物。仇は殺した。解決した。全部。ぼろぼろになっても立ち向かって来るニーナとの戦いで、割り切ったもの。……心配してくれたのは、まあその……。ありがとう」
「おゥおゥ。すっかり丸くなっちまったじゃねェか、嬢ちゃん!」
「うるさい! にゃんこカフェなら特製猫缶があるかもって思ったけど、注文してあげない」
「そりゃねェぜェェェェ!!」
ズィーガーの嘆きが店内に響き渡り、にゃんこに扮するケット・シーたちの化けの皮が剥がれ掛けた、その時。空気がぴりっと緊張するのを居合わせた全員が感じ取った。
異変を察知したガーンデーヴァが駆けて来る。
「!?」
「出雲、いまのって!」
「はい。おぞましい殺気を放つ何者かが現れました。すぐ近くに」
「…………」
「また綾瀬ちゃんが放心しとるな……」
「しっかりしろ! ……チッ。ガムビエルに遭遇したせいじゃあねェな……」
「綾瀬の精神が不浄な気配に乱されています。ガムビエルちゃんとは別のなにか……。同調して私も……」
「僕らで見てくるわ。フィエリテはんは休んどき」
「……気分は優れませんが、私も行きます。赤の他人ではないのですから。追いますよ」
フィエリテが指し示す先。なにかに取り憑かれたかのように、綾瀬がふらふらと歩いていた。
導かれるようにして店のバックルームへ到着すると、そこには――
・ ・ ・ ・
血まみれのガムビエルちゃんが力なく倒れていた。すかさず駆け寄った飛鳥が安否を確認する。意識はないが、呼吸はあるようだ。
傍らに倒れていた数匹のケット・シーが、かすれがすれに言葉を紡ぐ。皆、猫への擬態は解いていた。
「ガムビエルちゃん、逃げろにゃあ……。ウッ」
「ガムビエルちゃんは、俺たちの天使。みんなで護るのにゃあ……。グフッ」
「下賎な者よ、姿を現しなさい!」
フィエリテの呼び掛けに応じたのか、はたまた偶然か、なにもない空間から見知らぬ少女が姿を現す。
否。彼らにとって〝見知らぬ〟者ではなかった。
「綾瀬ちゃん!? ……いや、ちゃう。よう似とるけど、まるで子供のような」
「……私が呼んだのは綾瀬だけ。部外者は出てってくれる?」
「あなたは、誰なの……。何故、私と同じ顔をしているの……?」
壁に手をつき、綾瀬が〝綾瀬のようなもの〟を睨み付ける。なにかに抗うように、荒い息を吐き、苦悶の表情を浮かべながら。
「同じで当然よ。あなたの嫉妬感情から生まれたのだもの。繰り返される黒の世界の滅びに晒され、幾度となく両親を殺され、幸せな家族の団欒を垣間見て、妬み嫉み僻み恨み、降り積もった情念は〝私〟という形を取り、虚数領域で果てしない時間を、辛く昏く悔しく惨めに独り過ごせと強いられた!」
その慟哭に、綾瀬が絶句する。少なからず思い当たる節があったためである。
自身が復讐に情念を燃やしていた当時よりも、さらに悲痛で壮絶な叫びであったが。
「私はプリンセス・マギカ、レヴィー」
「私の嫉妬感情……? そんなはずない! 私は他人を羨むなんて浅ましいこと! ……して、ない……」
「嘘よ」
虚勢は瞬時に看破された。
「可哀想なあなた。情にほだされ、怒りと悲しみを忘れてしまったのなら、私が思い出させてあげる」
緩やかな動きで綾瀬の後ろに移動したレヴィーが背後から抱き付き、その耳元でなにかを囁いた。
「うっ。ううっ。……ああっ!」
「あかん! 綾瀬ちゃん、その子から離れるんや!」
頭を抱えて苦しむ綾瀬に声を掛けた飛鳥が、刀を抜いて駆け出した出雲が、狙いを定め弓をつがえたガーンデーヴァが、牙をむき出しにしたズィーガーが、守護結界を展開したフィエリテが、一瞬で不可視の斬撃に切り刻まれた。
やはり守護結界は用を為していない。
「この脱力感、件の斬撃です……」
「……復讐は終わっていない。終わったと思い込みたかった」
「な、なに言うとる。気を、気をしっかり持ちい!」
顔を上げた綾瀬の視線は定まらない。
「あのガムビエルは仇じゃない。ニーナも仇じゃない。どうすればいい」
「心ここに在らずって感じね……」
虚空を見据える綾瀬の頬を涙が伝う。
「パパやママは二度と戻らない。私だけが報われない。いっそ全部消してしまえば復讐になるかしら?」
「ふふふ……。あははは! そうよ! あなたは嫉妬の適合者! そうでなくては!」
「……あほぬかせ」
怒りを顕に、飛鳥が立ち上がった。
「復讐をやめて。歩き出して。やっと笑顔を見せるようになった。……やのに。あんたなんなん? なにしてくれてんのや!!」
「綾瀬にナニ吹き込みやがったンだ、テメェ!」
「確認しただけ。上柚木綾瀬の存在意義を」
すべてに嫉妬し、すべてへ憎悪を向ける者、レヴィーが微笑み掛ける。
「滅ぼすなんて生ぬるいわ。星界の彼方、虚数領域へ送る。すべてを〝無かったこと〟にするの。不平等な世界に価値は無いのだから、すべて消してしまえば平等よね?」
「良からぬ思考の持ち主のようですね。断罪しましょう。相対している我々が食い止めるべきです」
「力ずくってのは気ぃ進まんけど……。四の五の言っとる場合じゃなさそうやね。しゃあない、悪いけど大人しゅうしてもらうわ。いくで、フィエリテはん!」
「続きましょう。いきますよ、ガーンデーヴァ!」
「それ、邪魔ね?」
飛鳥と出雲がそれぞれのパートナーを支援するべく、カードデバイスを掲げる。
直後、甲高い音を立てて砕け散った。
「なん、やて……?」
「攻撃された様子もないのに、カードデバイスが!」
「私が〝不要〟と思えば、それは存在意義を失う。いまこの瞬間、世界中のカードデバイスは同時に消失し、世界中の人間の記憶から消えてゆく。最初から〝無かったこと〟になるの」
「んな無茶苦茶があってたまるか! そしたらこの世にあるモノや生き物、なんもかんもあんたの身勝手な思い通りに、全部無くなってまうやないか!」
「そうよ。それが私の願いだもの。……もっとも、意思ある者は簡単に消えてはくれない。例えばあなたのように意思の強い人間は、存在証明を果たしてしまう。だから、手っ取り早く世界そのものを消してしまうの」
「ケッ! 破滅願望ほど厄介なもンはねェなァ!」
「〝目的は世界征服です〟とでも言ってくれる方が、余程有り難いですね……」
ズィーガーの捨てゼリフにフィエリテが同意する。
「出雲を遠くに感じる……。まさかまたカードデバイスを砕かれるなんて。……けれど、貴女の仕業なら、徹底抗戦あるのみね!」
「カードデバイスが無くとも、動けない訳ではありません。リソース残量に注意して戦いましょう」
「手加減して敵う相手とも思えんけど、諦めてたまるか! 頼りにしとるで、出雲はん!」
「もちろんです、飛鳥君!」
「みんな! 大丈夫!?」
不退転の覚悟を決めた飛鳥と出雲の元へ、ふたつの人影が駆け込んで来た。
「姉さん!? ……はいないか」
「ヤトゥーラちゃん残念~。大好きなユティーカはいなさそうでちゅね~? 幻夢郷を飛び出して来たのに、おっつ~!」
「うららはん! ……に、アスツァールはん!? 永久牢に投獄されたはずじゃ!?」
「話は後! 綾瀬に似ている少女は敵、でいいのね?」
「せやね。その認識で合っとる!」
「了解。いきなり強敵と遭遇なんてココロ逸るわ」
「ヤトゥーラさんとアスツァールさんが加勢してくれるなら百人力です。力を合わせて飛鳥君の恋人を取り戻しますよ!」
「ぶっ!? 恋人ちゃうわ!!」
飛鳥が首と腕をぶんぶん振って否定した。ハリセン天使のおしおきを恐れての行動である。
「違うんですか? 仲が良いのでてっきり……」
「こらそこも違う! ツァールはこっち! なに敵の隣で腕組みしてるの!」
「当ったり前じゃない。あたしはゼクス使いたちに恨みがあるの。敵に洗脳され掛かってるあいつも、とっとと堕ちちゃえばいいのにね? クスクス」
「……ツァール。〝約束〟破ったら酷いわよ?」
「え~。それは嫌かも~。末妹のくせにお姉さんを脅迫するなんて、ああん、怖い~! ……分かった分かった。つまんないの」
「いずれにしても、迂闊に手を出せないけれどね……」
ガーンデーヴァの矢は正確に敵の眉間を狙っているが、次の行動に移せていない。レヴィーが綾瀬にくっついている現状は、人質に取られているようなものだった。
瞬時に全方向へ不可視の斬撃を放てる相手に、不意を付くのも難しい。
「しゃあねェ。俺様が許す。多少なら綾瀬を傷つけても構わねェ。一斉攻撃だ!」
「私とツァールはカードデバイスが無くても問題無く動けるわ。必ずスキをつくるから、その間に綾瀬を奪還して!」
「……い、いけません……」
「ガムビエルちゃん!? なして!!」
「そいつの言葉に、耳を傾けちゃダメ、です……。昏い感情に、身を任せちゃ、ダメです……。天使殺しにも、人殺しにも、なる必要は、ない……。二度と、手を汚す必要、ないんです……!!」
その言葉は飛鳥たちへ向けられたものではなく、綾瀬に向けられたものだった。傷付いた身体を引きずり、綾瀬とレヴィーの元へ這いずってゆく。
「ボクを許せないなら、いま一度、ボクを裁いてください……。けど、死は望みません。消えたくありません。ずぶといと、恥知らずと、言われても、いい……」
ガムビエルは懸命に立ち上がり、綾瀬へ震える手を差し伸べた。
「どうか、みんなの幸せを、祈らせて。叶うならば、あなたの幸せも。……上柚木、綾瀬さんッ!!」
「ガムビエル……。パパとママの仇、その生まれ変わり……」
「綾瀬ちゃん! 自分を見失ったらあかん!」
「綾瀬さん!」
飛鳥たちが励ます声は、届いているのか、いないのか。
半ば無意識の綾瀬の手も、ガムビエルの方へ――
・ ・ ・ ・
「こちらへどうぞ上柚木綾瀬。……いいえ。来るべきなのよ。だって、あなたは私なのだから。あなたが私を創ったのだから。〝絶対に許さない!〟って言ったじゃない」
「わ……たし……は…………」
運命の分岐
A:綾瀬はガムビエルの手を取る
展開 | 【王道展開】です。かつての仇敵と仲間の声で我に返った綾瀬は〝助けて…〟と最後の言葉を残し、レヴィーに取り込まれます。 |
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結果反映 | 大天使に昇華した「ガムビエル」イラストの新規カード制作 |
会場票(1,240)+Twitter票(585)=1,825pt
B:綾瀬はガムビエルの手を払う
展開 | 【波乱展開】です。仲間の声は届かず、綾瀬は仇敵ガムビエルを絶対に許しません。世界の破滅を望み、レヴィーに取り込まれます。 |
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結果反映 | ふたたび邪悪に堕ちた「ガムビエル」イラストの新規カード制作 |
会場票(790)+Twitter票(554)=1,344pt
「A展開」に決定しました!
03 第三戦「まっさらな景色」
こちらのイベントは終了しました。
Illust:吟、茄子乃/工画堂スタジオ
開催日時
2023年1月20日(金) 20:00~20:05
参加形式
五分限定!四色リソース供給チェック(Twitter)
ストーリー(前編)
「誰かがやらなければならないなら、いまここにいる私たちがやるべきでしょう」
「呼吸の合わない私たちだからこそ、イースさんに五色のリソースを託しましょう。それぞれが想い描く未来実現のため!」
ミサキとケィツゥーの呼び掛けに、頷く一同。皆、吐く息が白い。
あづみとリゲルの青のリソース、ミサキとガルマータとケィツゥーの白のリソース、きさらとヴェスパローゼの緑のリソース、そして、ナナヤの赤のリソースがイースへ注がれる。
「棒立ちでリソースだだ漏れさせてるだけのあんたらと違って、私は式神を撃破しながらリソース供給してやってんのよ。感謝して崇め奉りなさいよね!」
「式神の大半を受け持っているのは、我だがな……」
「すまない。凍えそうな寒さの中、貴方のぬくもりには感謝している」
「覇王竜の灼炎が、よもや暖房器具扱いか……」
自己顕示欲の権化たるナナヤの物言いや、素直過ぎるガルマータの感謝に、さしものカーディナルブレードもぼやかずにはいられなかった。
赤・青・白・緑、四色のリソースが、イースの手元で弓につがえた矢の形状を成している。
「ここまで無事、安定させられました。あとは黒のリソースさえいただければ……」
「オロンドさん?」
「パパ?」
「俺様は手伝わねぇって言ったはずだぜぇ?」
「この期に及んで、まだそんなことを!」
「クククッ。馬鹿め。泣く子も黙る快楽殺人者に期待しやがって!」
非難するミサキを、イリューダは一笑に付した。だが、その表情はすぐに真剣なものとなる。
「やらねぇんじゃねぇ。出来ねぇんだ。何故だか黒の世界のリソースがちっとも集まらねぇ。初めてだぜ、んなこと。……そもそも黒の世界ってなんなんだ。自然と口にしちまったが、赤・青・白・緑しか知らねぇぞ?」
「なにって。……なんでしたっけ」
「ついさっきもあったよな、似たようなことが。……ナニが起きてやがる」
プリンセス・マギカ レヴィーが黒の世界をまるごと消し去る大事件を起こした影響だったが、彼らには知る由もない。いずれ【黒の世界】に関する記憶と同様、【黒のリソース】の存在もこぼれてゆくことだろう。
「オロンド様、どのような状態でも構いません。リソースをいただけるでしょうか」
「りょ~かい。……いい大人が足手まといかよ、みっともねぇ」
「変換を試みます。先程の、どことなくソル様みを感じる老人に託された腕輪を貸してくれますか、スイ」
「イースんは狙いを定めるだけでいい。リソースの制御は私がやる」
「いいえ。スイは戦いに不慣れです。無理をするべきではありません」
「私だってやるときゃやるんだよ」
イースの力になりたいと願うスイは、イースが多色リソースの操作を訓練する傍ら、あづみやミサキたちから基礎的なリソース操作を習っていた。
実戦はこれが初めてとなる。
「承知しました。スイを信じます」
「そうこなくっちゃ。だから、絶対決めてよね! ……うおおお!」
「まだなの!? ちんたらやってんじゃないわよ! 私だって式神の猛攻を凌ぐのに限界があるわよ!?」
襲い来る式神を焼却しながら、ナナヤが喚き散らした。
「痛ッ。紙っぺらの分際で舐めんな!」
「イースさんにリソースチャージしながらなのに、どこか余裕が感じられるね」
「腐っても〝元神〟ってことよ」
「んぎぎぎぎぎぎぎ!」
スイが意味不明な雄叫びとともにリング・デバイスへ気合いを注入すると、イリューダから放たれる薄暗いリソースや、イースとスイが纏わせている無色のリソースが紫色に変質してゆく。本来、黒の世界に満ちているリソースの性質に近付いた証拠だった。
「きたああああああ! やっぱ気合いはすべてを解決する! これでいけるんじゃない!?」
「カーディナルブレード様にナナヤ様、時間稼ぎ有難うございます。黒のリソースも収束完了です。よくできました、スイ」
「ふひ~。あんがと」
・ ・ ・ ・
少し、時間を遡る。
赤の世界を訪れたあづみ、ミサキ、イリューダ、きさら、それぞれのパートナーゼクスたち。
覇王竜カーディナルブレードの【武の試練】を乗り越えた彼女らは、休息先の朽ちた社にて、安倍晴明を討つよう持ち掛けられた。拡大する赤の世界のブラックポイントで日本全土を呑み込み、他世界のブラックポイントをも呑み込み、すべての醜い生命活動を凍結へ至らしめる。それが安倍晴明の最終目標とのことだった。
「ガルマータ様との挙式を控えているのに、そのような横暴は許されません。粛清しましょう!」
「同感ね。あづみの未来を奪うなんて、決して許せないもの。塵も残さず排除するしかないわ」
「やっつけた方がいいのは分かるけど……」
戦争の影響で文明レベルが衰退した赤の世界には、いわゆる核の冬が訪れて久しい。そんな赤の世界に呑まれれば環境の激変は避けられず、疲弊した生物はやがて絶滅へ至るだろう。現に赤の世界の人類は故郷を見限り、現代世界への撤退を完了している。
「他世界の強者が集ったのも世界の意思か」
「あの……。その人ってずっと昔の、とても有名な人ですよね。ブラックポイントを大きくしちゃうような凄いことする人を、わたしたちが倒せるんでしょうか?」
「正攻法では困難を窮めるだろう」
覇王竜カーディナルブレードは腕を組み、思案する。
己を降した力ある者たちを見回すと、確信を得て頷いた。
「五色のリソースを束ねよ。さすれば強者安倍晴明を討ち取れよう!」
「それ、イースんなら出来るんじゃない?」
「赤の世界へ到達してから学んで来たことが、役に立ちそうです。皆様から五色のリソースを預かり、ひとつに束ねてみせましょう。協力をお願い出来ますか?」
「もちろん! ね、リゲル?」
「構わないわ。あづみの意思は私の意思だもの」
「きさらはどうするの? 相手はあの安倍晴明。思うところがあるんじゃない?」
「……たたかう」
「そう。なら手伝うわ。私は愚かな人類がどうなろうと、知ったことじゃないのだけれど」
世のため人のため活動しているあづみとミサキは覇王竜とイースの提案に従い、安倍晴明の子孫であるきさらも幼いながらに考え、覚悟を決めた。唯一、協力を拒んだのが――
「赤のリソースについては、仲間になりたそうにしていたナナヤ様が、嬉々として扱い方を教えてくださいました。あとは……」
「は? 仲間になりたそうになんてしてないけど! 利用してやってるんだけど!」
「クククッ。あんな分かり易い態度しといて傑作じゃねぇか! ……さて。仲間になった覚えのねぇ俺様はここらでドロンするぜぇ。んな危ねぇ奴がいるなら長居は不要だ」
「なんで? 私やマルノジ、パパだって、みんなの仲間だよ? 一緒に戦おう! せっかく知り合ったんだから、力を合わせよう?」
「おまえらとは短い付き合いだったが、それなりに楽しめたぜぇ。……行くぞ、マルの字」
「御」
「パパ、私の話聞いてる!? マルノジも止まって! 私、みんなとお別れしたくない! ……きぃちゃん!」
「あ……。とねり」
背を向けて歩き出したイリューダにマルディシオンが付き従う。
マルディシオンの内部に匿われているだけで支配権がある訳でもないトネリに、抵抗する術は無かった。
「リング・デバイスは不可能を可能にする」
「おじいさん?」
髭と深い皺をたたえた白髪の老人が、意味深な言葉を紡いだ。
その視線はあづみが装着した腕輪に注がれている。
覇王竜カーディナルブレードによる試練の最中、あづみたちのカードデバイスが消滅する事態が発生した。リソース不足に困惑するゼクス使いたちへ水晶球をあしらった腕輪【リング・デバイス】を渡したのが、不意に現れたこの老人だった。
そのため、彼とほぼ同じタイミングで現れ、窮地の人間たちを救って恩を売ろうとしていたナナヤの目論見は、見事に外れる結果となっている。
「肝心の説明を聞いてなかったわ。きさらにまで装着させて……。この腕輪、なんなの?」
「別次元の人型生命体から奪ったものを、ゼクス使いなら誰でも扱えるよう改変、機能を追加したものだ。カードデバイスに関する記憶が削り取られてゆく中、間違いなく貴様らの力となるだろう」
「一方的に仕掛けられた覇王竜の試練も突破出来たものね。説得力があるわ」
老人の説明を受け、ヴェスパローゼはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「リング・デバイスは叡智の結晶。仲間の〝想い〟や〝願い〟を届け、未知を既知にする可能性を秘めている。リソースの質、貴様らのレベルで表現するなら〝色〟の変換も可能だろう。……慣れた者が正規のリソースを扱うに越したことはないがな」
「そうだよ! ねえパパ、みんなに協力しよう? 同い年のきぃちゃんだって、ご先祖様と戦うって言ってるんだよ!? ほんとのパパは格好いいのに……。私、逃げるなんて恥ずかしい!」
「逃げるのは恥じゃねぇ!!」
トネリの言葉に、薄ら笑いを浮かべていたイリューダが表情を豹変させ、激昂した。
「……悪い。怒鳴っちまった。とにかく誰がなんと言おうと、懇願されようと、俺様は――」
刹那。
急激に吹雪が荒れ狂い、朽ちた社の屋根を吹き飛ばした。
「なんなのこれ!? みんな大丈夫!?」
「ここはもう駄目です! ガルマータ様と私で結界を展開しますので、皆さん、姿勢を低くして中へ!」
「嗅ぎ付けられたようだな、奴に……。吹雪はお得意の陰陽術か、式神の仕業だろう」
「クソが! 逃げそびれちまったじゃねぇか!」
「視界が最悪ね。生体センサーで多少はフォロー出来るけど、互いを見失わないよう意識して」
「それが……。おじいさんがいないの! お願いリゲル、探して!」
轟音にかき消されそうな、あづみの叫び。
だが、その直後に本人と思しき声が返って来た。
『狂気の科学者が手を貸せるのはここまでだ』
「おじいさん! 良かった……。どこにいるの? わたしたちの方へ!」
『俺が見捨てた世界の行く末を、拓いて、見せてくれ』
「え? なあに? 聞こえない!」
『……その先は、天才軍師にでも頼るといい』
老人の声と気配は吹雪の彼方へ消え去った。
「……反応、ロスト」
「どうして……」
結界の中、うつぶせ姿勢のままでミサキがイリューダへ耳打ちする。
「オロンドさん。こんな時になんですが」
「なんだよ。周りの音がうるさくてロクに聞こえねぇぞ」
「その点はご心配なく。なにせ本業は私の声を大勢へ届けることですから。……弓弦羽孤児院でトネリちゃんを引き取れないか、という件です」
「……ああ。そうだな。頼む」
「逃げようとしたのも、まずはトネリちゃんを生かさないと始まりませんもんね?」
「……気に入らねぇな。全部見透かしたような口利きやがって」
「私が知る限りの罪状を鑑みますと、出所まで何十年掛かるか分かりません。トネリちゃんがおばあちゃんになるまで待たせるつもりですか? それではあまりにも……」
「ククッ。夢をバラまくアイドルのくせして現実突き付けやがるぜぇ! ……俺様はトネリの情報を得るため人の道を外れた。確定死刑。オサラバ。……それでいい」
「私、待ってるから」
ミサキとイリューダの会話に割り込むように、トネリが告げる。
吹き付ける豪雪の中でも直立不動を維持する無敵の鎧、マルディシオンの内部にいるため表情は伺えない。
「聞こえてたのかよ。そうだ、俺様はおまえを捨てることにした。明日からは、独りで生きていけ」
「いいよ」
「いいのかよ!」
「ほんとはいや。嫌に決まってる! ばか! ……だけどパパにその気があるなら待つ。刑務所から出て来るの。偉い人にお願いして、死刑もやめてもらうよ。だからいまはみんなに協力して!」
「ふふっ。でしたらまず、この局面を乗り越えなくちゃいけませんね」
「はぁ……。わーったわーった。負けた。いくらでもくれてやるよ。俺様のとびきり黒いリソースをなぁ!!」
イリューダ・オロンドが、前を向いた瞬間だった。
・ ・ ・ ・
「……安倍晴明。あなたがどんな想いでいるのか知らないけど、世界を凍り付かせたりしない。私はこの戦いに勝って、イースんといろんなことして遊ぶんだから」
「皆様、下がってください! いま必殺の! シンフォニック・アローです!」
群がる式神の間をすり抜け、放たれた矢は狙い違わず、安倍晴明の心臓に吸い込まれていった。
「……よっしゃ命中! やったか!?」
ストーリー(後編)
「なんということだ……」
ガルマータが落胆の溜息を漏らす。
イース渾身の必殺技が安倍晴明を貫くことは無かった。
多数の式神が身代わりとなり、ダメージを肩代わりしたのである。口の端から血を滲ませているのが、わずかにオーバーした分のダメージなのだろうと想像された。
「マジかよ。倒せんのかあいつ!? せっかく協力してやったのに、イースおまえ頼むぜおいぃ!!」
「申し訳ありません、オロンド様、皆様。味方を盾にするような非道は想像がつきませんでした」
「付け焼き刃の連携にしてはなかなかじゃない。朕の式神も有限なのだから、そう何度も受け止めてはいられないけれど。ただ、何度も撃てないのはそちらもよね?」
「リソースをかなり消耗してしまいました。態勢を立て直す時間が必要です」
「けど、いまのが駄目なら、どうすれば……」
「ごせんぞさま。っょぃ」
『五光の矢を放つ策は妥当』
吹雪がやみ、太陽の光が照り付ける銀世界へ、大きな影が3つ。
『初撃失敗はリソース不足が起因と推察。ならば我ら神竜がリソースを供給するは道理』
『……つってもよ。ありゃ五色のリソースが必要なんだろ? 黒のリソースはどうすんだ』
『然り。重要なパーツが欠落したような感覚がある。喩えるならば、黒き竜か』
『五神竜に黒はいねえぞ? ……五神竜? 六神竜じゃなかったか? くそっ。分かんねえ!』
『落ち着け、光輝竜。むしろ赤のリソースが不要じゃな。四色に減らして安定性を増すべきじゃ』
蒼空の彼方から、蒼き螺旋竜ヘリカルフォート、白き光輝竜イノセントスター、碧き桜雅竜ノーブルグローヴが飛来していた。
距離があるにも関わらず、空気を震わせ、その会話内容が伝わって来る。
「ドラゴンさん!?」
「あちらの空からも来ます!」
『少々遅れた。滅天竜を捜していたのでな』
『私闘は終えた。状況も理解した』
紅き皇帝竜ロードクリムゾン、始まりの滅天竜ラストゼオレムが合流する。
「は? 後から来て〝安倍晴明を斃すのに赤のリソースは不要〟ってどういうことよ!」
『無駄では無いが、効果的では無いと言っておるのじゃ。五つの世界は互いに削り合うよう仕組まれた。故に、赤に赤をぶつけても詮無きこと』
「ぐぬぬ~」
「彼らは敵なの? 味方なの?」
「普段は〝竜の巫女〟と行動を共にしているドラゴンのようですね。私以外にもご存知の方はいらっしゃるでしょう。構える必要もないかと」
白の竜の巫女ニノと面識のあるミサキの説明を聞き、リゲルは警戒の対象を遠くに佇む安倍晴明へ戻した。一度はゼロとなった式神が徐々に再生している。立て直しの速度は敵側の方が勝っていた。
5匹の竜がゼクス使いたちを囲むように、雪深い大地へ降り立つ。
あたかも小麦粉をぶちまけたように粉雪が舞った。
「さっむ! 足つめてえ! 白の世界も大概だが、赤の世界もやべーことになってんな。んで、先んじて戦ってくれてたおまえらに聞くが……。まだやれるか?」
「ぅゅ!」
「ほっほっ。どうやら希望は潰えておらんらしいのう!」
「消耗戦を行うよりは先刻のリソース収束攻撃を研ぎ澄ませるべきと、我は分析している」
「螺旋竜がそう読むならば、そうなのだろう」
リソースは各世界のブラックポイントから絶えず放出されているが、距離を置くほど希薄になってゆく。そして、ゼクスは体内に蓄えているリソース量が低下すると活動が困難となる。その理を打ち破る道具がカードデバイスであり、リング・デバイスだった。
デバイスはその内部機構からブラックポイント同等のリソースを発生させるなど、様々なリソース操作をサポートし、各世界のブラックポイントから遠く離れた場所でもゼクスの活動を可能とした。
「皇帝竜と私のリソースを混濁させ、黒を補おう。構わないな、皇帝竜?」
「構わん。加えて我は漆黒の練気にも心得がある」
「決まりだな。純度は下がるが、量でまかなう。紛い物でも無いよりマシだろうからな」
「ゼクス使いたちよ。我らが体内に蓄えし膨大なリソースを貴殿らの技術で抽出せよ。然るのち、先刻のリソース収束攻撃を洗練させた四光の矢を成し、放つと良い」
螺旋竜がまとめた指針にイースが頷き、あづみ、ミサキ、イリューダ、きさらも追従した。
イースの初撃はリゲルやケィツゥーたちパートナーゼクスの体内リソースに頼ったもの。
現在地は赤のリソースに満ちた赤の世界であり、他世界のゼクスでも自然回復自体は可能である。しかしながら、まもなく再戦の準備が整うであろう安倍晴明を前にして、悠長に回復している時間的猶予は無い。第二矢は、より短時間でより膨大なリソースを賄うため、神竜の体内リソースを転用する。
それが彼らの作戦だった。
「偉そうに! ドラゴンの分際で頭が高いのよ! 人竜はもっとナナヤ様を頼って媚びへつらえ! 私の見せ場を用意しろってのよ!!」
「ならば頼みがある。身代わりの陰陽術を封じるため、安倍晴明の式神を根絶させてはくれまいか。覇王竜と撃墜数を競うが良い。……よもや神が竜如きに後れを取るまい?」
「誰に向かって言ってるつもり? やってやろうじゃない!!」
皇帝竜の提案に即答するナナヤ。誰もが〝ちょろい〟と思ったが、口にはしなかった。
続き、皇帝竜は向き直る。赤の世界を訪れたゼクス使いに試練を課し、強者討滅の糸口を掴んでみせた覇王竜を讃えるため。
「覇王竜よ。此度の行動、借りが出来たな……! いましばらく付き合ってはくれんか」
「気にするな、皇帝竜」
「つー訳で、だ。仕切り直しと行こうぜ、安倍晴明!」
光輝竜の啖呵を聞き、安倍晴明が高らかに嗤った。
「アハハハ! 醜い魂がぞろぞろと集まったものね。朕も最期の手段を披露しようかしら」
すでに完全復活を果たしていた取り巻きの式神たちが呪符形態へ戻り、彼女の周囲を不規則に乱れ飛ぶ。安倍晴明を中心とする中空に、見たことのない法陣が描かれていった。
やがて法陣から紫色の禍々しい霧が溢れ出したのを合図に、安倍晴明が契機の言霊を紡いだ。
「……邪竜召喚!」
法陣から鋭い爪が、漆黒の翼が、強固な尾が姿を現した。
妖しい霧を纏う、黒き竜の降臨である。
「あらァ。ココはドコ?」
「以前、私とガル君が戦った邪竜とは趣が異なるようですね……」
「なんと禍々しい気配だろうか。だがしかし、七体目とは壮観極まりない。天王寺大和や戦斗怜亜に見せてやりたいものだ」
「ドラゴンのバーゲンセールかよ」
ミサキがニノと関わるきっかけとなった邪竜フレスヴェルク討伐に思いを馳せ、ガルマータが少年の心を持つ同志を思い浮かべる一方、イリューダは心底辟易したように悪態をついた。
「ようこそ、我が庭へ。偉大なる黒竜、朕の願いを聞いてくれるかしら」
「言ってみて?」
「俗世を美しい銀世界に染め上げたいの。時が止まったが如く、凍て付かせる」
「それは何故?」
「均しく滅びを迎えるために……!」
「まあ素敵! お名前を教えてくれても?」
「安倍晴明。貴女は――」
「デスティニーベイン! 何故おまえが!!」
滅天竜の怒号が響き渡った。
「ンもう。人の名乗りを邪魔しないでくれる?」
「……おまえの処遇は地真竜に託したはずだ」
「そうよ。テオゴニアスと殺し合いしてたのに、晴明チャンに邪竜召喚されてイマココ。結局五神竜を相手にするワケね。それが私のデスティニーなのかもしれないわァ」
「あらそうなの。召喚のタイミングが悪かったみたいね。失礼を詫びるわ」
「まったくよ……。ねェ、晴明チャン。私への報酬を教えて? 楽しい殺し合いを邪魔した落とし前も付けて欲しいけど、願い事には相応の対価が必要よね?」
「朕を喰らえ、デスティニーベイン」
即答する安倍晴明。邪竜が口端を歪めて嗤い、あづみたちに戦慄が走った。
「然らば破壊は望むまま。ブラックポイントの拡大も再開する。下らない人類を滅ぼし、綺麗でまっさらな景色を見せて頂戴?」
「喰らうって……。まさか食べるって意味じゃないよね?」
「その、まさかよ」
「……ッ!!」
またもや即時の出来事だった。
誰ひとり予期していなかった急展開に、当の本人以外は動揺を隠せない。
「ごせんぞさま、わりゅいたましいのどらごんさんにのまれちゃた……」
「パパ……。私、怖いよ」
「ガキども覚えておけ。悪人の末路なんて大概こんなもんだ」
「ぅゅ。ごせんぞさまもわりゅいたましい」
「きさらと因縁のある人物との別れが、こんな呆気ないものになるなんてね」
「でも、いーすとすい、たすけてくれたのわすれない」
やっつけて、話し合えば、きっと仲直り。
淡い期待を描いていたきさらが、自然とこぼれる涙を服の裾で拭う。
魂分離の助言をくれた恩人の凄絶な末期に、イースとスイも目を伏せた。
「同族どころか、我ら竜が護るべき人類まで喰らったか。つくづく堕ちたものだな」
「初体験だったけれど、素敵なお味だったわ。貴方たちも喰らっていいのよね?」
鋭い牙の隙間から毒霧の吐息を漏れさせ、背筋を凍らせる声が寒空へ響く。
「……私に抗う愚かな人間ども」
邪竜召喚で消費されたはずの式神が、怒涛の勢いでデスティニーベインの周囲に現出する。その密度は、数えるのも不可能なほどだった。
「陰陽術も使えるとはな……。足止めは任せるぞ、覇王竜!」
「死力を尽くすとするか」
「ナナヤ様も頑張ってくださいませ。わたしたちはシンフォニック・アローの生成に入ります」
「リソースをゼクス使いへ託し次第、我らも式神と安倍晴明の対処に回ろうぞ」
「は!? それまで私とカーディナルブレードだけで持ちこたえろって言うの!? 相手があんな化け物になったんだから、布陣を見直すべきじゃないの!?」
「心配いらない。イースへリソースを束ね終えるまで無防備となる者たちは、守護者の誇りに懸けて私が護ろう。後顧の憂い無く、最前線で神の御業を奮って欲しい」
気を回したつもりのガルマータの言葉に、またもキレるナナヤ。
「そんな話はしてないわよ! むしろ私を守れ! 無理無理無理! どんだけ式神いると思ってんの!? 邪竜の強さも未知数! 私にだって無茶無謀なことくらい判るわよ!!」
「弱音を吐くな。焼き払うぞ!」
「私はただ安倍晴明が粋がっててムカついたから、痛い目に遭わせようと思っただけなのに~~~~!!」
「ウフフ。可愛い子たち……。かかってらっしゃァい!」
猛々しいカーディナルブレードと半泣きのナナヤが式神の軍勢へ突撃するのを見守り、あづみが蒼き竜を、ミサキが白き竜を見上げる。ゼクス使いたちは膨大な神竜のリソースを受け止めるため、敢えてイグニッション・オーバーブースト形態へ合体していた。
「ドラゴンさんのリソースをもらうね。リソースの量が多くなるから、さっきよりもぎゅっと詰まった感じにして、イースさんへ送ればいいのかな」
「然り。ユイのようにはいかぬだろうが、青の世界に属するゼクス使いならば、応用も利くだろう」
「イノセントスターさんはこちらへ。私と同調出来ますよね?」
「当然だ! その為に来たんだからな。わざわざニノと別行動までしてよ」
螺旋竜とあづみが、光輝竜とミサキが、それぞれ青と白のラインで繋がった。
「澄み切った青のリソースが、ドラゴンさんの力が流れ込んで来る……」
「ふふっ。口は悪くとも、あなたの心は清らかなのですね? ピュアな私にぴったりの心地よいリソースです」
「イースさんの必殺技が効かなかった時はどうしようって思ったけど、これなら……!」
一方、桜雅竜は緑のラインできさらと繋がっていた。
「大樹ユグドラシルと成る定めを跳ね除け、よくぞ生き抜いたものじゃ」
「ろぉぜまみがゆぐどらしるとけんかしてくれたから」
『関係ないわ』
「ほっほっ。これからも緑の世界を頼むぞ」
「うゆ!」
そして、イリューダは思い悩んでいる。
「しっくり来ねぇ。黒の世界? 俺様のリソースは何故黒い?」
「恐らく、〝黒の世界〟と呼ばれる未来が存在したのだ。竜の姫君……。否、管理権限を持つ上位存在が、星界の彼方へ送ったのだろうな。おぞましい」
大切なものを失わせた竜の姫君へ引導を渡した滅天竜ラストゼオレムだったが、そんな彼でさえ、彼だからこそ、もはや考えられなかった。己の行いを悔いていた彼女が、新たになにかを消滅させることなど。
滅天竜に続いて、皇帝竜がイリューダへ語り掛ける。
「我らがリソースを託す相手は、おまえで良いのだな?」
「……チッ。考えるのは止めだ。混濁だか混沌だか知らねぇが、不安要素ブッ込むんだ。どうなっても責任は取れねぇぞ。覚悟しとけよ!」
「なんだか大変そう。私に手伝えることある?」
「トネリは俺様の背中で応援でもしてろ」
「うん。頑張れパパ!」
イリューダとマルディシオンがイグニッション・オーバーブーストしたため、鎧から弾き出されたトネリ。小さな少女はイリューダの背中にしがみつき、懸命に片腕を振り回した。
皇帝竜の赤いリソースが黒く変色しながら、そこへ滅天竜の無色のリソースが絡みながら、イリューダへ注ぎ込まれる。
「赤じゃなけりゃいいってんなら、この中途半端な色でも問題ねぇだろうが……。一応、可能な限り黒くしてから送り付けてやるぜぇ」
「ん? イリューダおじさんがしなくても、また私が変換するよ?」
「バーカ。俺様たちがイグニッション・オーバーブーストしてやっとだってのに、素人のおまえにこのリソース量が扱えるものかよ。それより、俺様たちのリソースが問題なくイースに届いてるか見張っとけ」
「四色の配分が均等に近いほど安定します。威力も跳ね上がるでしょう」
「ふむふむ。……だとすると、見張るのも責任重大だね!?」
「頑張れパパ! 頑張れスイ! 頑張れイース! みんな頑張れ!!」
・ ・ ・ ・
神竜からゼクス使いへ、ゼクス使いからイースへ。
初撃と比して遥かに眩い虹光を放ち、必殺の矢はその手元で形を成していた。
「ありがとうございます。増幅された皆様のリソース、確かに受け取りました」
「均等になってると思う。大丈夫なはず。きっと。おそらく。あわよくば」
「スイを信じます。敵も進化したようですが、構わず貫いてみせましょう。いきますよ……。必殺、シンフォニック・アロー――」
「ストップ!」
静止の声を発したのは、きさらとの合体を解除したヴェスパローゼだった。
「威力が足りないわ。苦労が徒労に終わる可能性が高い」
「わたしには大丈夫そうに見えるけど……」
「そうですよ。あれだけのリソースを集めたんですよ!?」
「リソースの圧縮と収束に集中し過ぎよ。戦況をよく見るのね」
リゲルの言葉に反応し、一同が振り返る。
式神の集中砲火を受けたナナヤが倒れ込む瞬間だった。
「……しく、じった」
「神だのなんだのと喚いていたけれど。口先だけね?」
「なんて脆い、身体なのよ……。これだから、人間やゼクスは、嫌いなの……よ…………」
「ちっ。元神だか知らねぇが、俺様は元医者だ。カタが付いたら手当してやるから、せいぜい生き延びとけ!」
力なく笑みを返し、ナナヤが自らが創り出した血溜まりに沈む。
惨状を呈しているのはナナヤだけではない。覇王竜も翼を折られ、毒霧に絡まれ、身動きも出来ず地に伏していた。遅れて戦列に加わった神竜たちでさえ、自身より遥かに小柄な少女を象る式神たちに翻弄されている。リソース不足に加え、陰陽術と瘴気による傷は見た目以上に深刻なのだろう。
壁は、未だ、厚い。
「つまり、式神の群れごと吹き飛ばすしかない状況よ」
「……クッ。我らも侮っていた。デスティニーベインがこれほどまでの強さを得るとは……。安倍晴明の影響を強く受けたか、纏ったリソースが赤なのは、不幸中の幸いか。間違いなく四光の矢は効果を上げるだろう。……蜂の娘らが危惧するように、撃ち抜けるかは疑わしいが」
イースの手元で具現化した虹光の矢を見やり、満身創痍の皇帝竜は呟いた。
「シンフォニック・アローをいまのポテンシャルのまま留め置くのは困難です。打開策の提示を……!」
「いいえ。タァイムオォバァよォ? 突っかかって来た子猫ちゃんたちが力尽きたのだから、次は貴女たちの番。準備が整ってないみたいだけど、もう待てないわ。私は悠長に待っていられるほど甘くはないの。滅びィを与えてあげるわァ!!」
「どうしよう! イチかバチかで撃ってみる!?」
「絶対にダメよ。十中八九、ううん、九分九厘失敗するわ」
「だったらどうするってんだよ! もう打つ手がねぇぞ!?」
「手はあるよ」
か細いが、凛と通る声が、動揺する一同を静まらせた。
「〝リング・デバイスは不可能を可能にする〟」
あづみが紡いだそのフレーズに、皆がハッとなる。
「あの老人の……」
「うん。リング・デバイスには〝想い〟や〝願い〟を届ける力があるって言ってたよね」
「老いぼれの戯言を信じろってのか!?」
「わたしは信じるよ。だって、絶体絶命のピンチに不思議な力が湧いてくることって、本当にあるもん」
「……そうね。私たちはこの絆で奇跡を起こして来たわ。病気を克服したこと、焼失を免れたこと、ギリギリの戦いを勝ち残って来たこと。数え上げればキリがない」
「人生なんて奇跡の連続ですよ? 私とガルマータ様が出逢ったことを始めとして!」
「その程度で奇跡を語るの? 私ときさらの方が、遥かに上を行くわね」
「ふざけないで! 私とあづみの絆に敵うとでも思ってるの!?」
「奇跡の程度はともかくとして」
微笑むミサキがあづみの肩に手を置いた。
「あづみちゃんの意見に賛成です。努力を重ねて来た私たちだからこそ、たまには奇跡を期待してもいいんじゃないですか?」
「いい加減にしやがれ! 奇跡は起きねぇから奇跡なんだろうが! 想い願ったくらいで奇跡が起こせるなら、あいつらは――」
「奇跡は起こせるぜ。……諦めなきゃな!」
悔恨に塗れたイリューダの言葉を遮り、地を這っていた光輝竜が翼を拡げ、蒼空へ飛び立つ。
「ドラゴンさん大丈夫!? もうボロボロなのに!」
「残念ながら限界ギリギリ必死だぜ。だがよ、これでも白の世界を見守る神竜なんだ。俺たちゃ〝こっち〟を任されて来た。ヘマしたらニノに顔向けできねえ。てめえらだってそうだろ!?」
「消耗戦は不可避か。尽く計算通りにはいかぬものだ。無論、応じぬ理由は皆無!!」
光輝竜と螺旋竜に続き、残りの神竜も両翼を羽撃かせる。
「のう、デスティニーベイン。もう少々儂らと遊んでくれんか?」
「死に損ないが存外頑張るわねェ……。あと何秒もつのかしら?」
「聞け! 皇帝竜、螺旋竜、桜雅竜、滅天竜、そして俺! 五神竜で1分ずつ、5分持ち堪えろ! あとはゼクス使いたちが、なんとかしてくれる!!」
「適当過ぎんだろ! ふざけんな! どうせ叶わねぇ奇跡を俺様に願えってのか!?」
「どうせ報われない願いでトネリちゃんが救われるなら、儲けものですよね? なのに、可能性を棄ててしまうんですか? 優しいパパの、イリューダ・オロンドさん?」
「……ッ!!」
「とはいえ、夢を振りまくアイドルの私も根っこの性格は現実的だったりします。ドラゴンの皆さんが稼いでくれる貴重な5分間、奇跡を願うだけでなく、デバイスでリソースを生成することも忘れません」
「ああそうかよ! ……何度も俺様を弄りやがって。図太い女だぜぇ」
あづみと、リゲルと、ミサキと、ガルマータと、ケィツゥーと、きさらと、ヴェスパローゼと、トネリとマルディシオンの想いはひとつ。かつて、奇跡にすがり絶望した男の心も、ひとつとなった。
欲するものは、強者を打ち破り明日を照らす、青・白・黒・緑、四色の光。
「私たちの世界のために!」
「わたしたちの未来のために!」
「あつまりぇ、りそーす!」
「……誰でもいい。頼む」
4人のゼクス使いは叡智の結晶【リング・デバイス】を掲げた。
「想いなんて。願いなんて。断ち切ってあげるわァ!!」
「わたしたちの、想いは、願いは、決して負けません!!」
煌めき放つイースの矢。
安倍晴明を――
デスティニーベインを、穿け!
運命の分岐
2023年1月20日(金)20時にZ/X公式アカウントから行われるツイートアンケートにお答えください。
回答期限は20時05分までの5分間です。
青:あづみ、白:ミサキ、黒:イリューダ、緑:きさらの4人が参加者の皆様からリソースを集め、必殺技【シンフォニック・アロー・トリビュート】の準備をしているイースへ収束します。
あなたが託すリソースの色を「青」「白」「黒」「緑」のいずれかから選んでください。
参加者が100名以上となった場合、ミッション達成となります。
さらに、皆様が託した「青」「白」「黒」「緑」のリソース選択率が均等に近い場合(最大値と最小値の差が20%以内)、イースの必殺技は最大限の効果を発揮します。
選択肢1:「青」のリソース増幅をサポートする。
選択肢2:「白」のリソース増幅をサポートする。
選択肢3:「黒」のリソース増幅をサポートする。
選択肢4:「緑」のリソース増幅をサポートする。
判定 | ・参加者100名以上。 ・「青」「白」「黒」「緑」の選択率のばらつきが少ない(最大値と最小値の差が20%未満)。 |
---|---|
展開 | 【大成功】です。安倍晴明は倒され、デスティニーベインは圧倒的な力を失います。さらに、最終戦へ良い影響を与えます。 |
結果反映 | 最終戦の達成ランクが+1されます。 |
判定 | ・参加者100名以上。 ・「青」「白」「黒」「緑」の選択率のばらつきが激しい(最大値と最小値の差が20%以上)。 |
---|---|
展開 | 【成功】です。安倍晴明は倒され、デスティニーベインは圧倒的な力を失います。 |
結果反映 | 特にありません。 |
判定 | ・参加者100名未満。 |
---|---|
展開 | 【失敗】です。イースたちは敗北します。 |
結果反映 | 特にありません。 |
青 | 23.9% |
---|---|
白 | 25.8% |
黒 | 26.6% |
緑 | 23.6% |
【イベント】
— Z/X(ゼクス)公式アカウント (@zxtcg) January 20, 2023
🌈#英雄達の戦記LV 第三戦「まっさらな景色」
邪竜討伐のために必要な
リソースがわずかに不足しています💦
リソースの供給にご協力をお願いします‼️
5⃣分間で100名分のリソースが集まれば
ミッションクリア🎉
青白黒緑が均等に選ばれるとBestです✨#ZX_TCG
【大成功】です!
04 第四戦「最初の一葉」
こちらのイベントは終了しました。
Illust:希
開催日時
2023年2月10日(金) 10:00~18:00
参加形式
カルトチェインクイズ(Twitter)
ストーリー
緑の世界を訪れたほのめ、ゆたか、さくら、八千代、紗那、それぞれのパートナーゼクスたち。
それはまさに植物の楽園。どちらを見ても鬱蒼と生い茂った樹木に覆われ、草花の匂いに酔いそうになる。人類はおろか小動物の姿や小鳥のさえずりはなく、昆虫以外に生物の気配は感じられない。空高く舞い上がり周囲を見回してみても、地平線の先まで景色は緑一色。どちらへ向かえば状況を打開出来るのか、誰ひとり見当も付かなかった。
「行けども行けども似たような景色ばかりだね」
「前に進んでる気が全然しません!」
「……おなかへった」
「八千代、僕ノドが渇いたよ……」
すぐに別の問題にも直面した。果物を見付けたと思えば、巨大昆虫。動物がいないため、狩りも不可能。水場は樹木に奪われ、枯渇している。断続的な大地の揺れと不可視の斬撃にも見舞われた。
道なき道を闇雲に、終わりなき放浪の日々を、何日何時間進んで来たのかさえ曖昧になりつつある。最初のうちはムードメーカーとして機能していた紗那と桜街家の面々も、すっかり口数が減った。皆、真綿で首を締められるように、少しずつ体力と気力を削られている。
「アタイの演奏でも聴いて元気出しな!」
唯一、最後までめげずに声を振り絞っていたのが、フレデリカ。熟練の演奏技術と見た目に似合わぬ子供のようなソプラノボイスで、皆の気力を繋ぎ止めた。
その甲斐あって――
「甲高い声が聞こえたから来てみれば、おまえらかよ」
「なんだおまえたち。ヘトヘトだな?」
茂みの奥から現れたのは、幻夢郷をひと足先に離脱した相馬だった。苦悶の表情で昏睡するピュアティを背負い、さらにその背中からはフィーユが顔を覗かせている。
彼らは場違いな歌声の発生源を偵察に来たのだった。
「アタイの歌声が役に立ったのなら本望だぜ! ……あとは、頼む」
「おい!? 大丈夫か!?」
「安心したのだと思います。誰かに見付けてもらえるよう、ずっと歌ってましたので……。あと、ふーちゃんに気安く抱き付かないでくださいね……?」
「んなこと言ってる場合かよ!」
前のめりに倒れるフレデリカを抱き止めた相馬に、ゆたかが経緯を説明する。知り合いと遭遇して緊張の糸が解けたほのめやさくらたちも、その場へへたり込んだ。
「全員、脱水症状を起こしてそうだな。すぐに野営の準備をするから、身体を休めるんだ。でもって、動けるようになったらとっとと逃げろ。大樹の養分にされるぞ!」
・ ・ ・ ・
相馬が簡易キャンプを設置し、皆を毛布や荷物の上に寝かせ終わった頃、フィーユが大勢のゼクスを連れて戻って来た。八大龍王の首魁である和修吉と、彼女に付き従うエレメンツたちである。
「みんなを連れて来たゾ」
「何事かと思えば、行き倒れか。捨て置くのも忍びない。我らの利にはならんだろうが、世話してやれ」
「かしこまりました、和修吉様」
自然現象や気象に干渉する術を身に着けているエレメンツの働きで、当面の水不足が解決。わずかだが食料も分け与えられた。休止に一生を得た形である。
相馬も自らの状況を説明し返した。大樹ユグドラシルの根であるモウギに襲われ、衰弱していたピュアティを救い出したのち、ライバルの和修吉と休戦して撤退して来たところだと。
「それにしてもおまえら、なんでこんなトコにいるんだよ。……もしかして迷子か?」
「迷子? フッ……。そんな低次元の事象じゃない。わたしたちは迷い込んでしまったの。人生という名の袋小路にね!」
「そう。迷子で困ってたの。〝こんなトコ〟にいる訳は、私たちにもさっぱりで……」
「幻夢郷から現代世界へ帰還するつもりでゲートをくぐったのですが、次の瞬間、何故か私たちだけこの地へ飛ばされていたのです」
相馬の質問に八千代とさくらが答え、フォスフラムが補足する。
「ゲートを開いた奴の悪意って可能性もあるが、いまは考えるだけ無駄だな」
「確認させてください。こちらは、緑の世界で間違いありませんね?」
「ああ、そうだ。大自然に囲まれた理想郷なんてもんを想像してたなら、大間違いだぜ。言ってみりゃ樹木の牢獄だ。オレたちがいたモウギ近辺なんざ枝葉や根が縦横無尽に伸び放題、太陽の光も届かなかったぜ」
「脱出の見込みは?」
「フィーユや和修吉たちが緑の世界にいた頃の記憶を頼りにブラックポイントを捜しちゃいるが、際限く樹木が繁茂するせいで、どんどん景色が変わってるらしい」
「薄々そんな気はしていましたが、事実を突きつけられると、流石にショックを隠せませんね……」
フォスフラムが疲れた声色で溜息をつく。
重苦しい雰囲気に支配されそうになる中、八千代が景気よく拳を打ち鳴らした。
「逆境なんか慣れっこだってのよ。いちいちめげてなんかいられないわ」
「水と食料をありがとう。お陰でみんな落ち着いたよ。一部の人は元気になり過ぎてるけど」
「初めましての可愛らしい女の子だらけですぅ~。私というものがありながら、相馬くんも隅に置けませんね~。うりうり」
「鬱陶しい。離れろ」
「それで、あんたたちはどうするつもりだったのよ」
「正直に言えば途方に暮れてたが、おまえらと出逢ったことで、風向きが変わったかもしれないな」
「風向き! 虫取り名人さんも風読みが出来るんですか!?」
「どうでもいいところに食いつくな、さくら」
「大樹ユグドラシルには意思がある。すべてを取り込み全一を目指してるっつうんなら、みすみすオレたちを脱出させはしないだろう」
「迷路のように樹木を繁茂させてな。大地の鳴動は活動の一端に違いあるまい」
相馬の考えに和修吉が同調する。すでにそのような光景にも目撃したのだろう。
「尻尾巻いてとんずらして来たとこだが、引き返して、モウギを枯らすぞ。アレは大樹ユグドラシルの末端にして、本体でもあるからな。上手くいきゃ、なんらか道が拓けるだろうぜ」
「なによそれ。いい加減な作戦ね! わたしたちのMSKなら、決してそんな結論には至らない」
「なにもしなけりゃ、いずれ一歩も動けなくなる。大樹の養分にされるよか、マシだと思うぜ?」
「そうね。違いないわ。退路を断たれたなら、反撃に転じるべきだもの。わたしは乗った!」
「じゃ、じゃあ、僕も……」
「もしかして。ユグドラシルとかいうものと、戦う流れでしょうか?」
地鳴りが鳴り止まない中、ゆたかが疑問を口にした。
大樹ユグドラシルは九州地方とフランスにある二箇所のブラックポイントから、竜域(現代世界)へ枝葉を伸ばしつつある。過去も未来も構わず、文字通り総てを呑み込むつもりなのだろう。
相馬の提案はその大いなる動きに、真っ向から逆らおうとするものだった。
「和修吉も構わねぇな? 八大龍王はモウギを信奉してるって聞いてるが」
「あれは民草をモウギに近づけさせぬための建前。娑伽羅ら未熟者がどう考えてるかは知らんが、我にあれを崇拝する気持ちなど微塵もない」
「そりゃ良かった」
「だが、モウギに眠るソーマは我らのもの。共闘もそこまでと考えろ」
「上等だぜ。そんときゃまた敵同士だ。ピュアティが生涯懸けて守ってるもんを奪わせやしねぇぜ!」
「へへ……。虫取り名人一行の合流で、シケた空気が変わったな!」
沈むように眠っていたフレデリカの声。
「鬱陶しい大地の鳴動が止まった訳じゃねぇが、希望が見えたぜ」
「ふーちゃん、目が覚めたんですね! 良かった……」
「ああ。ゆたかが青のリソースを供給してくれたからな。だいぶマシになったぜ」
「はい! 愛を込めて注ぎ込みました! このカードデバイスで……。うええっ!?」
ゆたかの手の中で、カードデバイスが空気中に溶け込むように消滅してゆく。さくらや八千代のカードデバイスも、同じように皆の目の前で霧散していった。
大事を取ってデバイス内部へキャプチャーされていたフレデリカが、強制的に弾き出される。
「いてて……。なにが起きた!?」
「攻撃を受けた形跡はありません。見えない斬撃とも異なります」
「カードデバイスだけを狙って消すなんて誰の仕業よ!?」
「私たちの誰も認知できない、大きな力が働いているのでしょうか」
「困りましたね~」
「緑の世界にいる限り、急場のリソースに心配はありませんが……。他世界のゼクスである皆さんは全力を出せないでしょうね」
普段はおちゃらけているユーディでさえ緊張した表情を浮かべ、さらなる異変を察知しようとしている。
桜街家メイド隊もそれぞれの武器を構え、紗那を守る陣形を組んでいた。
「大樹ユグドラシルは緑の世界全部を呑み込んだんだろ? つまり……」
「大地が。……ううん。星そのものが敵? なんですか? 無理無理!」
カードデバイスの消滅は遠き地にいるレヴィーによるものだったが、彼女たちに知る由もない。
大樹ユグドラシルの仕業だと勘違いしたゆたかが、あからさまに動揺する。
「怖気づいたか? 繁茂を食い止めねば現代世界に侵食するだけだろうがな。元々大樹ユグドラシルはすべてを我が物にしようとする貪欲な存在だ」
「他世界よりも強くあろうとした青の世界は、果てしない科学の発展で自滅寸前まで追い込まれた。革命戦に勝利した結果、なんとかかんとか踏み留まれたけどな。緑の世界も他世界の進化に対抗した結果、この有様か……。未来人なら落とし前つけねぇとな」
「相手は緑の世界のラスボスだ。気合入れろ!」
「ふええ……。そんなのを私たちが倒せるんでしょうか!?」
「途方もないことしようとしてるのは、間違いないね。ただ、私としては白のリソース不足が心配かな。……あれ? いままで、どうやって補給してたんだっけ?」
「みんなだらしないなあ。僕はリソース切れなんか慣れっこだよ。駆け出しの半人前だった頃、八千代が下手っぴでさ!」
「そうだぜ。びびってんなよ、ゆたか。ユグドラシルを放置したら馴れ合いも出来なくなるぜ! 気力体力が回復してこれからって時だろ。緑のリソースだけじゃ、いまいちノリ切れねえが……。アタイをなめんなよ?」
「いちゃいちゃ出来なくなるのは困ります! 私、やります!」
「アタイの言ってる〝馴れ合い〟っつうのはそういうんじゃなくて……。まあいいか。そんなんでやる気が出るなら」
「幻夢郷からこっそりドリーム・キーを持ち出して来たの、正解かもしれません。星相手に通用するといいんですけどね!」
「皆様ご静粛に!」
取り留めのない会話に、これまで沈黙を保っていた人物が介入した。
なんのことはない。迦陵頻伽とふたりそろって体力がミジンコ並みのため、野営開始直後から爆睡していたほのめである。彼女は目覚めた直後、あるものに気付いたのだった。
「剣淵さんが引き連れているエレメンツな方々に紛れて、アタシ似の、息を呑むような美少女が! ……不躾ながらお名前を伺っても構いませんの?」
「やっと気付きましたわね。アタシこそは〝一番最初の〟リーファーにして〝真っ先に〟眠りについた、優美なる花吹雪ナズナですの」
「言っておくが、オレの知り合いじゃねぇぞ」
「我が配下でもない」
どうやら相馬や和修吉の知らぬ間に隊列へ加わっていたらしい。
見た目通り、蝶ヶ崎ほのめが緑の世界へ進んだ姿とのことだった。極めて無害なほのめの人となりを少なからず知っているメンバーは、すぐさま警戒を解いた。
「やはりアタシの未来の姿ですのね。道理で神々しいと思いましたの」
「そういうこと自分で言うから〝あほのめ〟って言われるし」
「なにやら困っている様子。緑の世界に詳しいアタシが、皆様を導いて差し上げますわ!」
「渡りに船です。ブラックポイントまで案内をお願い出来ますか?」
「えっ!? ……そ、それは出来ませんの。いえ、知りませんの」
「うう~。緑の世界からの大脱出を期待してしまいました……。どうあっても大樹ユグドラシルとの直接対決は避けられないんですね……?」
「ユグドラシルを攻めるなら攻略拠点は必要だから、丁度良かったよ」
「コンディションも万全にしておきてぇ。多少動ける程度じゃダメだ。全快に近い状態まで持ってかねぇと。もちろんメンタルも含めてな。おまえらだって、久しぶりに風呂とか、入りてぇだろ?」
親切心からの、なにげない一言。紗那を含む女性陣の間に戦慄が走る。
「……相馬く~ん?」
「なんだよ怖い顔して。オレ、なんか変なこと言ったか?」
「ソーマ、いまのはアタシでも分かる。デリカシーなさすぎだゾ」
吊るされた男となった相馬を後目に、ナズナの話は続く。
「アタシが安全な場所まで案内しますの。皆様が出発出来るようなら、さっそく移動を開始したいのですが。そう遠くはありませんの」
「疲労は溜まっていますが、少しの移動なら可能でしょうか?」
「歩けない者はエレメンツに運ばせる故、名乗り出るが良い。例えばそこの半死半生とかな」
「おまえは油断ならないから駄目だ。ピュアティはアタシが運ぶゾ!」
ナズナを遠巻きに眺めながら腕組みしている八千代に、アルモタヘルが声を掛ける。
「……難しそうな顔してるけど、どうかしたの、八千代?」
「なんでもないわ。ただ、ちょっと気になっただけ。仲間の未来の姿ってだけで、信用するのはどうなのかしら。ル・シエルの弟子として裏社会を生き抜いたわたしに言わせれば、美味しい話には裏があるものなのよ! そうよね」
意地悪な笑みを浮かべ、八千代がアルモタヘルの巨躯に拳をぐりぐりと押し付けた。
「一人前になったつもりのアルモタヘル?」
「うえっ!? ……ぼ、僕に触れたらカミソリ羽根で怪我しちゃうよ?」
「いまさらそんなヘマするわけないわ。わたしが信頼するアルモタヘルならね!」
・ ・ ・ ・
「……そっか。私、気を失ってたのね……。もう下ろしてくれていいわよ。十分回復したわ♪」
「ピュアティも目が覚めたんだな! ソーマがずっと心配してたゾ」
大所帯の長い隊列を組んでの移動中。
最後尾でフィーユに背負われ、昏睡していたピュアティが目を覚ました。
「ありがと。それより皆に伝えて。私たちを先導するリーファーから四皇蟲と同じ大樹の匂いが……」
「シコーチュウ? ヴェスパローゼと同じってことか?」
「ごめんなさい。伝えるのが遅かったかも。せめてソーマに伝えて。最大限の警戒をするように!」
フィーユたちから少し離れた場所で、先頭のナズナが足を止めた。
「目的地に着きましたの」
「行き止まりじゃないか。〝安全な場所〟にしてはなんにもない」
ナズナのすぐ後ろを歩いていたエレメンツのひとりが尋ねる。
なにもないどころか、いつの間にか周囲は多数のリーファーに取り囲まれていた。各々がファンシーな杖を手にし、ふわっふわでメルヘンチックな衣装を纏っている。
「ついでに退路もない。親切なリーファーさーん。どゆこと?」
「発見、青の世界のゼクスとゼクス使い! 敵敵敵敵だ!」
「……敵? 私のこと指さしてます!? ふーちゃん、私たち、睨まれてますよ!」
「分かってる。うろたえるな」
万全じゃない状態で、戦力未知数の相手にどこまで抗えるか。フレデリカは状況分析を始めていた。
迦陵頻伽も沈黙したまま相手の出方を観察している。
「ほかにもたくさんいるね?」
「きっとみんなグル」
「私たちの大樹が青の世界に狙われています。衛星を墜とすなんて卑劣極まりない手段で!」
「そうじゃなくても他世界ゼクスは全部敵。総て敵。懲らしめよう」
「それじゃ手ぬるい。大樹の糧にしよう。そうしよう」
「最初は青の世界のゼクスとゼクス使いから!」
身に覚えのない敵意を向けられたゆたかがおびえ、紗那とユーディにすがりついた。
「紗那さん、ユーディさん、あと桜街家の皆さん! リーファーさんはお仲間ですよね? あの子たちはなにを言っているんですか!?」
「仲間と言えば仲間ですが……」
「フフン! ポピーは知ってますです。悪戯っ子同士、リーファーと意気投合したク・リトの介入で魔法少女になったという、マジカルな方々に違いないですです!」
自慢げに解説するポピー。その腕に、脚に、どこからともなく蔦が絡みついた。
「ほよ?」
「捕縛!」
「ぴゃあああああああ! 先程の剣淵様のように逆さ吊りですです!」
「リーファーといえども容赦はしません。蔦檻へ投獄します」
「大樹ユグドラシルの全一を受け入れぬ愚か者どもめー。蔦檻の中、無惨に干からびるが良いわー。逃げ出す輩は皆殺しー」
「残念だけど仕方ないね★ 大樹ユグドラシルの言うコト聞かない悪いコは★ あたしの魔法で強制的に全一されちゃえ★」
「なんですの!? なんなんですの!? 説明を求めますの、ナズナさん!!」
マジカルな杖が輝きを放ち、四方八方から蔓が伸びてくる。
さらには地面からも強靱な蔦が凄まじい勢いで繁茂し、ドーム状の構造物を形成した。
「大樹ユグドラシルに蓄積された知識が〝アナタがたは邪魔〟と判断しましたの。眠りへ誘ってあげますわ。一番目の端末であるアタシが直々に!」
「油断した。頑丈なツタで出来た鳥カゴみたい」
「破壊出来る見込みはありそうですの?」
「みんなツタに絡みつかれてるから厳しいかも。あたしの超音波も植物には効かないし。ナズナを倒せば解放されるかもだけど、ほのめのあほ面相手にやりにくい!」
「ナズナさん? アナタまで蔦檻に閉じ込められている状況ですが、それは良いんですの?」
「…………」
「再び眠りにつく。それだけのことですの」
「おや。なにやら不自然な間がありましたね?」
「なんだか焦ってるようにも見えるな?」
「腐ってもあほのめってことか」
「「〝腐っても〟言うな!!」」
ツンベルギア、カーネーション、迦陵頻伽の追求に、ほのめとナズナが口をそろえて抗議する。
くだらない口論をしている間も絡みつく蔓や蔦を跳ね除けることはできず、ほのめ、迦陵頻伽、ゆたか、フレデリカ、紗那、ユーディと桜街家メイド隊の総勢9名は様々な格好で囚われてしまった。
「はあっ。はあっ。もがけばもがくほど、蔦が食い込んでいきますです……。こんなの……。こんなの、そうと知ったらもがきまくるに決まってるじゃないですか! そうして身動き出来なくなった私を、じっくりねっぷりたっぷりどっぷり、おしおきするんですね!? 口に出しては言えないような濃密なおしおきを! なにしてるんですかひと思いに早く! おしおきを早くするですです! 早くしないと限界突破したポピーがどうなっても知りませんよ!? うぇへへへ」
「すみませ~ん、ナズナさん。見ての通り私たちは動けないので、ポピーを黙らせてくれませんか?」
「アタシもそうしようと思ってましたの」
「もがっ。もごご」
「ちょっと! あたしは関係ないよね!?」
「暴れないでくださいカーネーション! 蔓が私にまで……!」
ユーディの要求に応える形で、ポピーに対する戒めが強くなる。幾重もの蔦草が絡みつき、ツンベルギアとカーネーションをも巻き込んで巨大ミノムシのようになった3人は、ぐったりして動かなくなった。
「蔦檻は相当な衝撃を加えなければ破壊できませんわ。よしんば破壊出来たとしても驚異の再生力ですぐ元通り。とはいえ、セオリー通りアタシたちを倒せば術は解除され、再生能力を失うかもしれませんわね? ついでに言うなら、アタシたちは術の構築に意識を集中させているため、追撃を繰り出すことはしませんの」
「あほのめの未来の姿だけあって、聞いてもないのにべらべら喋ってくれるし」
「貴重な情報を与えていいんですの? 知っての通り、こちらにはアタシという頭脳派がいますのよ?」
「構いませんの。勝利への確固たる自信があるからこそ上から目線で教えてあげているのですわ。確かに恐るべき頭脳と美貌を誇るアナタは注意すべき存在ですが、不可能なものは不可能。無理なものは無理ですの」
「……おい。見た感じ、捕まらずに済んだ奴らがいるぜ?」
フレデリカの気付きに対して、ナズナがやれやれと溜息を漏らす。
「外部からの助けを期待しているなら無理な相談ですの。何故なら運良く逃げ果せた者たちは、いまごろ……。それに蔦檻はアナタ方が干からびるまで決して逃しはしませんわ。中も外も地獄ってことですの」
「こんなポーズでミイラになるのはちょっと嫌ですぅ~」
紗那が意味もなく身体をくねらせている。言葉では嫌がっていても、表情は楽しげだ。
いつもながら、事態を深刻に受け止めていないのだろう。
「……ただ、計算外の事態も発生していますの。鬱陶しいことに現代世界からブラックポイントを通じて、ホウライ、ライカンスロープ、リーファーの軍勢がなだれ込んでいますわ。大樹の知識によると、先頭を駆けるライカンスロープは五頭領ウェアタイガーとウェアパンサー」
「千年國の! あの子たちが駆け付けてくれれば、あたしたちきっと助かるし!」
「反撃の猶予は与えませんわ。本来なら何十年何百年とかけるところですが、マジカル特急便サービスを使用します。たったの一週間足らずで仕上げて差し上げますの!」
「思ったより猶予くれるんですね?」
「リーファーは普通の人間と比べて途方もなく長寿な種族。時間感覚がズレてるのでしょう。私、ユーディはイマを大切に生きているのでそんなことはありませんが」
「アナタも! アナタも! そちらのアナタも! 大人しく大樹とひとつになるですの!」
ナズナは勝ち誇った笑みで人差し指をひとりひとりへ、ビシッビシッと突き付ける。
「アタシに妙案がありますわ」
中途半端な緊張感が漂う中、凜とした言葉を発したのは、ほのめだった。
「洗脳を解くための定番はショックを与えることですの」
「なんでナズナさんが洗脳されてるって言い切れるんですか?」
「何故なら彼女はアタシですの。アタシならこんな非道い仕打ち、絶対にしませんわ。つまり自らの意思ではないということですの!」
「アタシは天才美少女なので洗脳なんかされてませんの。アタシを倒しても第二第三のアタシが全一の理念を受け継ぎますわ」
ほのめたちの作戦会議を聞きつけたナズナが反応を示した。
「根拠の浅はかさや相手の言い分はさておき、洗脳という線は当たっていると思いますよ。マジカルの杖はプラセクトが変形したものなのですが、ずっと催眠音波のようなものを発していますから」
「ほんとだ! なんか〝みょ~んみょ~ん〟って小さな音が聞こえる!」
「もう! もう~! 酷いですよ。なんですぐに教えてくれなかったんですか!」
「いやあ……。不肖ユーディ、気付かないフリした方が面白くなると判断致しまして!」
「敵は身内にあり、だな……」
「お褒めに預かり恐悦至極です。人をおちょくることを日常としている我々からすれば、ナズナさんは最初から怪しさ爆発でしたよ? もっとも、ほのめさんに負けず劣らず底が浅いというかなんというか。ほのめさんがアレなのでナズナさんもただアレなだけという可能性は最後まで捨て切れませんでしたが、いやあ……。お見事! 流石は〝最初の一葉〟! ロートルってことですかね? 言葉の意味、分かります~?」
「「シャーラップ!!」」
言いたい放題言われるがままのほのめとナズナが、またも同時に叫んだ。
「ムカつきますの。マジカル特急便サービスの出力を20倍にして差し上げますわ!」
「20倍!? ……って具体的にどれくらいでしょうか?」
「1週間だった猶予が8時間程度になったということですの」
「なんですかそれ! ユーディさんが余計なこと言うからですよ!?」
「ハハッ!」
「皆様ご静粛に! 時間がないので手短に話しますの。いまのアタシたちに動かせるのは口だけ」
「そう、ですね……」
「がんじがらめですぅ~」
「つまり! ゆたかさんとフレデリカさん、紗那さんと桜街家、そしてアタシとびんがの華麗なる話術に掛かってますわ! そして! 言い出しっぺのアタシたちが幻夢郷コントを披露する時ですの! びんが!!」
「無茶言うなし」
熱弁するほのめに迦陵頻伽が極めて冷静なツッコミを入れた、わずか5分後。
閉鎖空間は微妙な空気に包まれていた。
「妙ですわ。幻夢郷で培った、渾身の母仔竜コントを披露しましたのに顔色ひとつ変えませんの」
「付き合うんじゃなかった……。なんであほのめに乗せられたし、あたし」
「……強敵ですわ。偉大なる未来のアタシ! さて次は、ゆたかさんの出番ですの!」
「あーあー。あなたは包囲されています。武装を解き大人しく投降……。するのは、状況的に私たちの方ですね!」
「悪い。アタイもこの作戦はパスだ」
「やる気なさ過ぎですの! 次! というか最後!」
ゆたかとフレデリカが一瞬で勝負を投げ、バトンを託された紗那が厳かに語り始めた。
「桜街紗那です。黒の世界のブラックポイントが発生した日、両親・姉・妹を乗せた旅客機が墜落。風邪で寝込んでいた私と祖父母は助かりましたが世界は変わりました。訃報が伝えられたのは、太陽が眩しい、夏の日のことだったと覚えています」
「……えっ。紗那さんにそんな過去が?」
普段より落としたトーンの紗那。
蔦檻の内部は微妙な空気から、いたたまれない空気へ、その質を急変させた。
「結婚を間近に控える姉のため、家族旅行を提案したのは私でした。楽しいことを期待する私の軽率な行動が、いつも周りを不幸にするんです」
リーファーのひとりがマジカルな杖をかざし、天井から吊られた紗那にスポットライトを当てる。うっかり感情移入してしまい、演出せずにはいられなかったのである。
「寂しさから姉の性格と妹の姿を模倣するようになった私は、みんなが眠りについている関東を目指して彷徨うようになりました。そして、知ったんです。緑の世界でゆるやかな死を待ち続ける種族の存在を―― だから私はリーファーになりたかったんです」
「マジかよおい……」
激情家のフレデリカが滂沱の涙を流し始めた。
「なのに、私は出会ってしまいました。いつも未来を見据えている皆さんと。そして、私は思い始めました。皆さんと一緒なら、生きる希望も見付けられるかもしれないと。私ひとりが生き延びてしまった意味を考えるようになったんです。だから、少しでも明るく振る舞おうと必死に道化を演じてきました」
なによりも家族を大事に思う迦陵頻伽が息を殺して聞き入っている。
「……けど、もう無理です!! ……だって、ここまで来ちゃったんですから。本当は、いつもずっと、すぐにだって、おやすみしたかったんです。私、お姉ちゃんや紗沙に会いたい。お父さんやお母さんと話したい。家族のところへ旅立ちたい!!」
嗚咽以外の音は失せ、静まり返る蔦檻内部に、ユーディの高らかな声が響き渡った。
「はい! いまの紗那お嬢様の話にうるっときた人は、お手元のいいねボタンを! 少しでも長生きして欲しいと思った人は、隣のRTボタンを! あわよくば我々を解放してくださると助かります!」
「え、えーと……。いまのお話は本当なんですの? つくり話なんですの?」
「いや~。良い反応ですね、ナズナさん! 正解はこのあとすぐ! ……になるかどうかはマジカルな皆さんの態度次第でしょうか。知りたいですよね? 知りたくないですか~? ほ~ら知りたいですよね!」
「うずうず。うずうず」
「あと5秒以内に降参してくださいね? 5、4、3……」
「ぐぬぬ。こんなことで……。けど、アタシの内に眠る慈愛の心とリーファーの好奇心が抑えきれませんの」
「2! 1!」
「……ああ」
ナズナがぽんと手を打った。
「このまま紗那さんを大樹ユグドラシルに取り込んでしまえば、紗那さんの記憶は、大樹ユグドラシルの端末であるアタシに共有されますわ。真実も定かになりますの」
「……チッ」
「セーフ! セーフですの!」
「惜しかったですぅ~」
先程の語り口調が嘘のように、紗那はけろっとしている。
極めてプライベートな内容のため、紗那の口から続きが語られない以上は誰にも追求出来ない。味方陣営にも深刻な精神的ダメージを与えつつ、真実は闇に葬られた。
「……ふう。なんだかんだと数多くの窮地を切り抜けて来た、英雄たちですの。紙一重でしたの。最初の一葉たるアタシが、危うく情にほだされるところでしたわ!」
「流石はナズナさん。一筋縄ではいきませんの。可愛いだけではありませんわね!」
「ほのめさんこそコントはイマイチでしたが、素晴らしい策ですの。先程など動揺するあまり集中が解けて、蔦檻を解除してしまうところでしたわ」
「ふふふですの」
「ふふふですわ」
ほのめとナズナが互いを讃え合う。
いたたまれない空気は、別の意味で最高潮を迎えた。
「ともあれ。先程、好奇心旺盛なリーファーたちはこぞって興味を示してましたわ。大樹に洗脳されていても、精神的揺さぶりは有効ということ。一気に畳み掛けますの!」
「と言いますか、蔦がますます絡んできて……。早くなんとかしないと、干からびる前に私たちの貞操の危機ですよ~~~~!」
「まったくもってその通りですわ。これ以上破廉恥な姿になりたくなかったら、乙女の秘密でも黒歴史でもなんでもぶっちゃけて、ナズナさんの感情をかき乱すしかありませんの。ほら、ゆたかさん! フレデリカさんとの間になんかないんですの? 聞いてるこっちが悶え苦しむ恥ずかしい情事の数々が、絶対確実になんかありますわよね!?」
「なんかってなんですか! あったとしても言いたくないです~~~~!」
「メンタルブレイク作戦、第二ラウンド開始ですの!」
・ ・ ・ ・
相馬、さくら、八千代とそのパートナーたちは蔦檻の捕縛から逃れた。いち早く危機を察した相馬が、ふたりの手を引いて脱出したためである。
「和修吉たち、消えたゾ! ひゅんって!」
「エレメンツの仕業だろうぜ。あいつらだけで逃げやがったな……」
「……いい加減に手、離してくれる?」
「ふふっ。両手に花ですね」
「もう。ソーマったら! やっぱり若い子がいいのね? 悔しいっ!」
「いやっ。これは! ……そ、それよりあの、草のドームみたいなの調べねぇと。あいつら閉じ込められちまった」
慌ててさくらと八千代から手を離した相馬が、蔦檻へ向かって歩き出す。
その背中へ声を掛ける者たちがいた。
「オイオイ。案外楽しそうじゃないか」
「コイツは元から気に食わなかったんだ。俺たち側のくせして、いつまでも人間を気取ってるコイツがな。許せねえよ。アイツが寝返った一端をつくったのもコイツだろ?」
「余計な口を開かずとも結構。私たちは私たちの使命を遂行するのみですわ」
言葉の表面だけなら喜怒哀楽はあるが、そこに感情は込められていない。
虫のパーツを身に着けた異様な雰囲気をまとう3匹の男女が、相馬たちと距離を置いて舞い降りた。
「人間、じゃないか。虫みたいな羽がある。ライカンスロープに昆虫型なんているのかな?」
「きさらちゃんとこのヴェスパローゼさんと、なんだか雰囲気が似てるね」
「ミカエル様から緑の世界の要注意ゼクスとして伺ったことがあります。ヘルソーン、マンティスバーグ、サンダーアトラス。それにヴェスパローゼさんも含めた四皇蟲はプラセクトの頂点だとか」
「ごたくはいいわ。敵でいいの?」
八千代の疑問にフォスフラムが炎を燃え上がらせ、答える。
「はい。相手にとって不足無しです!」
「やっつけるしかないな。ソーマ、やるゾ。アタシはヘルソーンがいい!」
「では、私たち3人とパートナーで四皇蟲をひとりずつってことですね?」
「身体中ダルいんだけど、やるっきゃないか」
「八千代、虫取り名人さん、やりましょう! 閉じ込められたほのめさんたちと合流するためにも! 吹き抜ける風でフォスフラムの炎を運ぶよ!」
「……いや、そいつは駄目だ」
勇み出るさくらと八千代の姉妹を相馬が制した。
「おまえらは体力を消耗してるだろ。完全回復してからの戦力には期待してたが、いま四皇蟲を相手にするには荷が重い」
「はあ? なによそれ! 足手まといって言いたいの!?」
「そう言ってるんだが? はっきり言ってやるよ。邪魔だ。戦力にならねぇ奴らは、閉じ込められた奴らを助け出す方法でも考えてろ」
「あわわ。ごめんなさい。あのね、ちょっといいかな? 僕もさっき調べたけど、あの檻、再生能力がすごいんだ。僕の風じゃ全然吹き飛ばせなかったよ」
「威力が足りねぇんだろ。見掛け倒しって感じだもんな、おまえ」
「うぐぅ」
「アルモタヘルの強さをなにひとつ知らないくせに、馬鹿にしないで! だいたいさっきから、あんた何様のつもり!?」
「オレは虫取り名人様だ。……せいぜい期待してるぜ。いくら弱ってるおまえたちでも、根性振り絞れば、動かない標的相手に必殺技の1発くらいは撃てるだろ? 足止めはオレとフィーユに任せろ!」
「はあ? なによそれ……」
「ゴメンな。ソーマはああいう言い方しか出来ないんだ!」
次の瞬間、相馬とフィーユはそれぞれマンティスバーグとヘルソーンに向けて駆け出した。
「え? どゆこと? なんでバラバラの相手に……」
「作戦変更、了解。仲良し双子姉妹にしか出来ない仕事をするよ。虫取り名人さんとフィーユちゃんを信じて!」
「さくらちゃんご明察~♪ 私は貴女たちよりはまだ動けそうだから、あっち側に参加するわ。ソーマに貸しをつくる、いい機会だものね♪ ご長寿のお狐様を頼りにしてちょうだい」
ピュアティがサンダーアトラスへ向け、疾る。
1対1、3組の戦いが始まった。
「え? どゆこと? さっきからなんなのよ!」
「私たちの役割は閉じ込められた人たちを助け出して、少しでも戦力を増やすこと」
「聞いて無かったの!? アルモタヘルの技は通じなかったって!!」
「私たちの合体技、あるよね?」
「合体技? わたしとさくらの必殺技ってこと?」
「おかしいなあ。こっそり考えてくれてると思ったんだけど? 私と八千代、アルモタヘルとフォスフラムがそろわないと発動出来ない、すっごい必殺技!」
「……ハァ。妹のくせして、なにもかも見透かしたようなことばかり」
八千代がさくらたちを見回した。
決して諦めない、強い意思に裏付けられた、会心の笑みを浮かべている。
「計画段階だったんだから、失敗しても文句言わないでよね」
「もちろんだよ。……といっても、虫取り名人さんたちの生命が掛かってるけどね? 時間は限られてる」
「プレッシャー掛けてくれるじゃない」
「ぶっつけ本番はいつものことだよ、八千代。僕たちならやれる! ……多分」
「さくらの意志は私の意志。八千代の指示に従いましょう」
「よく聞いて。この技は、暴風を媒介にした冥闇と灼炎の合体秘奥義。アルモタヘルの闇とフォスフラムの炎を、ふたつの翼が生み出す風に乗せて放つの。名付けて――」
「【ヴァーミリオン・セメタリー】を炸裂させるわ」
運命の分岐
2023年2月10日(金)10時にZ/X公式アカウントから行われるツイートアンケートにお答えください。
回答期限は18時00分までの8時間です。
【蔦檻内部Aグループ】ほのめ、ゆたか、紗那と【蔦檻外部Bグループ】相馬、さくら、八千代が協力して蔦檻を破壊します。力を合わせ、それぞれの役割を成功させてください。
彼女たち6名に関するカルトクイズがABグループ別々に1問ずつ出題され、正解者が200名を超えた時点で次のクイズが出題されます。
正解者数は参加人数×正解選択者率で算出され、AB両方ともに3問突破した時点でミッション達成となります。
さらに、追加で出題される〝ナズナ〟〝四皇蟲〟それぞれの未公開設定に関する4問目についても、ともに正解者が100名を超えた場合は彼らの弱点を暴くことに成功し、内外からの攻撃は最大限の効果を発揮します。
判定 | ABそれぞれ4問すべての正解者が100名に到達。 |
---|---|
展開 | 【大成功】です。ナズナの洗脳が解け、囚われた者たちは脱出に成功します。さらに、最終戦へ良い影響を与えます。 |
結果反映 | 最終戦の達成ランクが+1されます。 |
判定 | ABそれぞれ3問目の正解者が200名に到達。 |
---|---|
展開 | 【成功】です。ナズナは降伏し、囚われた者たちは脱出に成功します。 |
結果反映 | 特にありません。 |
判定 | ABどちらかでも3問目を突破できず。 |
---|---|
展開 | 【失敗】です。ほのめたちは脱出に失敗します。 |
結果反映 | 特にありません。 |
A-1問(ほのめに関する問題) | 【○】363名クリア |
---|---|
A-2問(ゆたかに関する問題) | 【○】370名クリア |
A-3問(紗那に関する問題) | 【○】231名クリア |
A-4問(ナズナに関する問題) | 【○】142名クリア |
B-1問(さくらに関する問題) | 【○】296名クリア |
B-2問(八千代に関する問題) | 【○】213名クリア |
B-3問(相馬に関する問題) | 【○】206名クリア |
B-4問(四皇蟲に関する問題) | 【×】B3のクリアがタイムオーバー直前だったため未出題 |
【成功】です!
05 最終戦「彼方の明日」
こちらのイベントは終了しました。
Illust:吟
開催日時
2023年2月23日(木祝)
参加形式
影響・大:ランブル戦参加(大阪会場)
影響・小 / 投票:記憶を持ち越すプレイヤーを候補者8名から選択(Twitter)
ストーリー
青の世界を訪れた神門、世羅、ニーナ、春日、千歳、それぞれのパートナーゼクスたち。
幻夢郷におけるアドミニストレータ ソルとの全面対決に関する報告を済ませた神門は、青の世界での権力を要求した。青の世界へ飛ばされて早々、虚のさざなみなどの異変を観測したからである。
治安維持部隊の頂点にして青の世界の代表であるアドミニストレータ ベガは異常事態の収拾を条件に、神門の申し出を承認した。当然、それは異例の判断であり、多くの敵を生む結果となる。
一方、千歳から同様の報告を受けたアドミニストレータ デネボラは無念の拳をわななかせた。
「ソルは逝きましたか……。出来ることなら直接ぶん殴ってやりたかった。なのに、非道の言い訳を聞くことさえ、もはや叶わぬというのですか!?」
「ごめん。あたしは青の世界に連れ戻すつもりだったんだけど……。後で知った時には、もう」
「……いえ。こちらこそすみません。取り乱しましたが、青葉千歳さん、貴女に非はありません」
無二の親友をスーパーコンピュータ・シャスターの礎にされた無念を、晴らせなかったことへの怒りである。このことは〝のちに〟シャスターの有り様を根底から覆すきっかけとなるが、それはまた別の話。
青の世界における拠点を確保した神門は、すぐさま【黒崎神門超常現象研究室】略して【黒超研】を設立。
好奇心旺盛な世羅と冷静で慎重な春日を調査班リーダーに、かつて神々の討祓戦へ参加した折に治安維持部隊へ配属されていたニーナを防衛班リーダーに、そして千歳を自らのボディガードとして任命した。本来であればアレキサンダーが神門の護衛を担うべきところだが、彼は世羅と春日の子守りを任じられている。
「黒超研のちびっこどもが慌ただしくしてやがる」
「黒崎神門超常現象研究室からの指示が的確過ぎるの。逆に戸惑っちゃうくらい。ソル様の再来って風説も的を射てるわね」
「なにかおっぱじめようってんなら、私もひと口乗らせてもらおうか!」
黒崎研は瞬く間に様々な功績を挙げ、当初は〝ソルの再来〟と危険視していた者たちからの信頼も勝ち取っていった。
「黒崎君は凄いにゃあ……。なんでも解決してしまうのにゃ」
神門とは幻夢郷での決着後に知り合ったばかりのニーナも、その天才的な手腕に驚嘆している。
手放しに兄を褒められ、ここのところ、妹の春日は非常にご機嫌だった。
「春日たちに焼失したキラーマシーンの残骸を集めさせたのは、〝世界の意志〟を読み解くためなのだそうです。意味や意義が理解らずとも、みか兄様を信じて進みます」
「そのよく分からない研究の成果として【虚数シールド】が開発されたのにゃ。カーバンクル部隊が虚のさざなみを無効化出来るようになったから、早速みんなを守ってくるにゃ!」
虚のさざなみやカードデバイスの消失といった事件は他世界同様に発生している。
しかしながら、青の世界は大きく分けて五系統が存在する未来の可能性のうち、もっとも安定した平和を謳歌している。言うまでもないが、以前はそうではなかった。あくまで、シャスターを巡る革命戦や神々の討祓戦を乗り越え、掴み取った平和である。
以前の青の世界であれば、勢いに乗じて他世界をまとめて潰しに掛かっていた場面。しかしながら、現在は他世界との協調姿勢を最優先している。シャスターに代わり、不慣れながらも頂点に立つことを選んだアドミニストレータ ベガと、彼女の背中を後押しして青の世界を去ったアドミニストレータ ポラリスの想いが、そこにはあった。
竜の姫君が願うまでもなく、五つの世界はゆるやかに融和の道を歩んでいた。
・ ・ ・ ・
「おぞましき力が我らの拠点を粉微塵に……」
「黒超研を飛び出して正解だったね。ワールドアバターを迎撃されて、逆鱗に触れちゃったかな? ふひひ」
「春日殿ネイ殿の預言通り。神門殿はレヴィー殿に危険視されているようでござる!」
「あたしが視れるのはせいぜい10分後の未来だから、あんまりあてにしてもらっても困るけどね~。魔導書ネクロノミコンでも見透せないものはあるし」
「カーバンクルのみんなに頼んで、神門君やベガさんの管制室があるセントラルタワーと、いまボクたちがいる建物の周辺には、虚数シールドを展開してありますにゃ」
「ありがとう。心強いよ」
それは、プリンセス・マギカが刺客として送り込んだ嫉妬の眷属【ワールドアバター】に対し、神門が大戦力を差し向けた直後のことだった。黒崎神門超常現象研究室の消滅を予期したネイの言葉に従い、全員が避難を終えた直後、拠点としていた建物が消滅したのである。
「カウンター攻撃へのカウンターってとこだね。うちら待機組を一網打尽にする目論見だったかな?」
「外郭は竜の巫女とパニッシャーが、本丸は黒超研が対処します。そう決まったからには、春日たちは出撃命令を待つのみです。みか兄様と一緒にサポートを頼みますよ、ルナ!」
春日は窓の外、高くそびえるセントラルタワーを見上げた。先刻の奇襲やワールドアバターの出現経路からレヴィーの居場所を割り出すため、神門やスーパーコンピュータのAIであるルナが人智を超えた計算を行っているはずだった。なお、セントラルタワーの本来の主であるベガは他世界の問題解決に対応しているため、黒超研の作戦からは外れている。
神門からの連絡を待ち、緊張が高まる中――
「〝シャスターでも計測不能か。だがこの勢いで歪みが広がれば世界はめつぼうする!〟」
唐突にとんでもないことを口走った世羅を、皆が振り返る。
「あはは! みか兄のモノマネ~! 昨日ね? 確かそんなこと言ってたよ」
「びっくりさせないでよ! ……けど、それを神門が言ったのなら世迷い言じゃないんだろうね。あたしには歪みってのがなんなのか、ちっとも分からないけど」
「千歳殿に同じくでござる。神門殿の言葉はその大半が意味不明でござるよ」
「はい! 僭越ながら説明させていただきます!」
勢いよく手を挙げたのは、童顔が愛らしい正体不明のゼクス、リルフィだった。虚のさざなみの出現と前後して出現した、異次元からの来訪者【パニッシャー】と呼ばれる者たちのひとりである。
彼女のほかにも大勢いたパニッシャーは〝隣人の窮地を救うために自分たちがいるのだ〟と協力を申し出ており、神門は未知の戦力である彼女らを躊躇なくワールドアバターへ差し向けた。
唯一、神門直々に指名され黒崎研の臨時メンバーとして迎え入れられたリルフィのみ、セントラルタワーの隣に創られた一時避難所で世羅たちと一緒に待機している。
「五つの世界に神域、幻夢郷に星界。さらに並行世界。リルフィ時空も並行世界のひとつですね! ……と、このように皆さんの【竜域】は多数の異世界と繋がっています。いえ、繋がり過ぎています。このままでは時空の緩みというか……。黒崎さんも言っているように、歪みが心配です。事故がなければ良いですが。そして不肖リルフィ、説明と問題提起はしましたが頭は良くないので、詳しいことはちんぷんかんぷんですッ!」
「プリンセス・マギカ レヴィーは上柚木綾瀬の悪意を顕現せし存在。あらゆる嫉妬感情を糧に力を増しておる。世界の危機じゃ」
着席したリルフィに続けて、巫女装束に身を包んだ少女が懸念を口にする。
「エアさん? パニッシャーと一緒に出撃したんじゃ?」
「我らの役割は竜の加護を与えることのみ。戦力にあらず」
「ロードクリムゾンらがいるならともかく、あいにくと別行動していますので」
「うべなうー。イノセントスターも、あかのせかいでがんばってるのー」
「竜の巫女単独では足を引っ張りかねません。心配せずともパニッシャーの武力は本物でした。紛れもない救世の勇者です。異世界の者たちに命運を託すのは歯がゆい思いでしたが」
「貴様たちにも竜の加護を与えてやらねばならんしな!」
エアに続けて現れた、赤、白、緑の竜の巫女も思い思いに着座する。
これもまた、以前ならば考えられない光景である。竜の巫女が人前に姿を現すことは稀であったし、なにより、各世界の竜の巫女は互いを敵視していた。
「レヴィーはすべてを無に返そうと目論んでいます。由々しき事態です」
「そういえば、いま、春日たちが装着しているリング・デバイスも、少し前まで〝似て非なるもの〟を使用していた痕跡があるそうですね」
「〝最初から無かった〟ことにされたものは、纏わる記憶も、やがて失われるらしい」
「記憶が、無くなる……? 大切な約束も……? そんなの、リルフィは絶対に嫌ですッ!」
「落ち着け。かくいう私も記憶が奪われている故、判然とせんのだが」
指先ひとつで桜の花吹雪を部屋一面に散らせるクシュル。次の瞬間にはそのすべてを消してみせた。
「おそらくリング・デバイスと〝似て非なるもの〟は、おまえたちのような力あるゼクス使いを無力化するため、消されたのだろう」
「彼奴に許されねば、万物が存在を否定されるのじゃな」
「強い意思があれば抗えるけど、最初から意思の無いモノだとそうもいきませんにゃ」
「そういえば、虚のさざなみに襲われた時も同じだったにゃあ。たとえにゃあにゃ本体が無事でも、着ている服は必ずぼろぼろ。聖職者ともあろう者があられもない姿――」
「クゥン! 黙れにゃ!」
「やれやれ。なんだってレヴィーはなんでもかんでも敵視するんだろね~? べつにいいじゃん。おきらくごくらく、テキトウに生きとけばさ……」
「みか兄様ならなんとかしてくれると信じたい反面、そんな途方もない相手に春日たちが勝てるのか、どうしても疑問に感じてしまいます……」
面倒くさがりのネイに続いて、現実主義の春日も深い溜め息をつく。
ともすれば重苦しくなる雰囲気。それを許さない者もいた。
「もうっ! ダメだよかすてら! みんなも!」
「世羅の言う通り! 弱気になったら虚のさざなみにだって抗えなくなる。勝負する前から負けちゃうよ?」
「……ふふっ。そうですね。ありがとう、世羅ちゃん、千歳さん」
「とは言え、拙者らは未熟者や人生経験の浅い若輩者ばかり。建設的な意見を出せそうにないでござるよ」
「竜の巫女の皆様は、敵の脅威や時空の歪みについて、どうお考えですにゃ?」
ニーナが傾げた首と反対方向へ。赤の竜の巫女メイラル、白の竜の巫女ニノ、緑の竜の巫女クシュル、始まりの竜の巫女エアが息ぴったりで首を傾げた。
ちなみに、青の竜の巫女ユイは避難所には立ち寄らず真っ直ぐ神門の元へ向ったため不在。つまり、有効な意見を出せる頭脳派は、この場に誰ひとりいないのである。
「パニッシャーの応援でもするか!」
最も有効な意見を千歳が提案した、その直後。
建物が、床が、空気が、揺れた。
・ ・ ・ ・
ワールドアバターを返り討ちにされたレヴィーは市街地の一部を虚無へ返し、自らの姿を曝け出した。静かな怒りをほとばしらせながら〝なにもなくなった場所〟の中央にたたずんでいる。
『パニッシャーとワールドアバターの戦いは長引くと想定していた。皆にとっては想定より早い段階での出撃となり、申し訳なく思う。ともあれ、以上が作戦の概要だ。質問はあるか?』
「確認するよ。青の世界と各世界の技術を融合させた、最新鋭のバトルドレスを身に着けた世羅と春日が攻撃の要。ニーナとあたしが防御の要。竜の巫女が適宜支援。神門は管制塔ってことでいいね?」
『間違いない。本音を言えば世羅と春日を最前線へ送り出すのは避けたかったが、ふたりの連携をも凌ぐ最適解を導き出せなかったのでな』
「レヴィーが出て来た時はびっくりしたけど、ちゃんとボコすから! せらとかすてらに任せて安心してて!」
レヴィーが出現した方向へオリハルコンティラノの杖を振り下ろす世羅。
春日も力強く頷いたのを確認すると、千歳はビジョンに映る神門へ追加の質問を投げかけた。いまもセントラルタワーに籠もっている彼の背後にはアレキサンダーの姿もある。
「もひとつ確認。無力化だけでいいね?」
『構わん』
「よし。それを聞いて安心した! 世羅と春日はあたしなんかが心配するほどヤワじゃないと思うけど、人型の女の子と戦うわけだから一応ね? ……もっとも。手加減させてくれる相手じゃないだろうけどさ」
「トドメが必要な場合はクシュルが喜んで引き受けるって言ってたよ?」
「言ってない! 普段から竜の巫女最強を豪語してるメイラルがやれば良かろう!」
「謹んで辞退します。汚れ役は効率最優先のユイこそ適任かと思いますが」
「けんかしちゃだめなのー」
「あのー。リルフィからも確認です」
威厳の欠片もない竜の巫女たちが騒ぎ立てる中、リルフィがおずおずと手を挙げる。
「本当にリルフィは出撃しなくてもいいんでしょうか? リルフィだって、ぎゅんぎゅん戦えますよ? 確かに先生不在でイグニッション・オーバーブーストも出来ませんし、全力を出せませんけど!」
『イグニッション・オーバーブーストはもはや過去の技法と言っていい。春日たちが実践しているのはおまえが知るオーバーブーストの、遥か先をゆくものだ』
「ぐぬぬ……。あんなに苦労して身に着けたのに、こっちでは通用しませんか……。分かりました。ここで大人しく待機してます」
『黒超研の秘密兵器だとでも思っておけ。もしも春日たちがピンチに陥ったら、力を貸してやってくれ』
「分かりました! 微力ながら!」
『現時刻より【嫉妬感情体討滅戦】を開始する!』
世羅、春日、ニーナ、千歳が出撃し、メイラル、エア、ニノ、クシュルがそれぞれの支援につく形で後を追った。
「みなさん、リルフィの分も頑張ってくださいね! ……そして」
「なにが起きてもリルフィは絶対に忘れません。それが唯一の約束ですから」
ひとり残されたリルフィは、どこにいるとも、いないとも知れない大切な人へ想いを告げる。
『リルフィ』
「わひゃ!? 通信、まだ繋がってましたか! なんでしょう?」
『ワールドアバターの消滅と同時にパニッシャーが一斉に姿を消した訳だが、おまえひとり残留している理由が分かるか?』
「すみません。ちっともです」
『【世界の意思】を読み解いた結果、パニッシャーは救世のため召喚された異世界の思念体だと判明している。だが、どういうわけかおまえだけは実体だ』
「リルフィだけが……。そうなんですか!? なんだか特別感ありますね! 沈没しかけた心がきゅんきゅんしてきました!」
『ほかのパニッシャーたちは役目を果たしたから消えたのだとするなら、実体を伴って出現したおまえにしか出来ない役割が残っているのだろう。俺はそう考えているが、心当たりはないか?』
「リルフィの役割ですか……? 残念ながら見当もつきません」
『やはりな』
「〝やはり〟ってなんです馬鹿にして! ぷぅ~ッ!」
・ ・ ・ ・
「やはりな。追跡している体を装い、おびき出してはみたが……。俺たちのいるセントラルタワーではなく、かなり座標のずれた場所へ出現している。聖女の魂を受け継ぐニーナならともかく、有象無象が展開した虚数シールド如き、奴ならものともしないはずだがな? さっきの黒超研拠点の消滅も同様。俺が不在にしていたから攻撃出来た訳だ。すなわち――」
数刻前。世羅たちに出撃指令が下る直前のこと。
神門は5人の竜の巫女と相対していた。すでに神門のもとにいたユイが、メイラル、ニノ、クシュル、エアを呼び寄せた形である。
「俺と奴は反発する。双方に星界の管理者権限が付いている疑い……。なるほど異常事態だ。創世の資格を持つ者が、同じ位相にふたり存在している訳だからな。助言に感謝する、青の竜の巫女」
「のう、黒崎神門。妾にはひとつ懸念があるのじゃ。レヴィーは凶悪な嫉妬感情体。世界消滅を憂う我らの想いと衝突する際、起こり得る作用は相殺か、はたまた暴発か……」
「……なんだこれは。この感覚はなんだ。なんだというのだ!」
「うるさいよ、クシュル。ユイたちは真面目な話をしてるんだよ?」
「いったいどうしたと言うのですか?」
エアが神門へ答えのない疑問を投げかけたその時。クシュルが頭を抑えて呻き出したのである。
「遠き大樹が私に囁き掛けているのか」
「たいじゅ? ユグドラシルのことなのー?」
「……〝大難に抗うな。円環に呑まれる〟だと? 馬鹿言え! 奴を放置すれば総て滅びるぞ!?」
・ ・ ・ ・
レヴィーと世羅たちが向かい合っている。
真祖の嫉妬の魔人レヴィアタンを素体とするレヴィーは、万物に対する憎悪を隠しもしない。不屈の聖女と竜の巫女の加護が無ければ気圧されてしまっていたことだろう。
「気付いているかしら、貴女。忌々しい黒の世界が消えた。呆気ないでしょう?」
「〝黒の世界〟という言葉に引っ掛かるものはありますが、春日やネイちゃんとなんの関係があるのですか?」
「くくく……。あはははは!」
「なにが可笑しいんですか!」
竜の姫君は墓城を星界送りにした。
レヴィーはかつて墓城が存在した黒の世界をまるごと星界送りにした。
誰も知らない。思い出すこともない。
ほんの数時間前まで黒のリソースを操作していた春日でさえ、墓城で日々を過ごしていたネイでさえ。
レヴィーはそれが可笑しくてたまらなかった。
「……私は全部消す。別次元もろとも。特異点が足掻こうと修復不可能」
「春日には不可能を可能にしてきた仲間がいます。みか兄様がついています。絶対に負けません!」
「でも、なんでみかにいは戦わないんだろ? 〝なぜ余が最前線に立てぬのだー!〟ってサンダルコがよっきゅーふまんしてた。ルシエル様を倒した時なんか、一番前でビーム跳ね返したり格好良かったのに!」
「その話を聞くたび、うずうずします。みか兄様の勇姿、見てみたかったです! それはそれとして、みか兄様が直接参戦しない理由ですか。言われてみれば、確かに聞いてません」
「賢明な判断かもしれないわ。だって、私と彼には星界の管理者権限が備わっているのだもの」
「星界……?」
「管理者けんげん……?」
彼女たちにとっては、それらのワード自体が初耳だった。レヴィーがなにを言い出したのか判然とせず、きょとんとしてしまう。
「なにも聞いていないのなら、その呆けた顔も無理ないわ。けど、知る必要もない。だってあなたたち全員、このあとすぐに〝最初から無かったことになる〟のだもの」
「ハッ! いまさらそんなの、脅しにもならないね! 何故なら、あたしたちは勝利を確信してるからだ!」
「さっきあなたの顔を最初に見た時は、ホントに綾瀬さんそっくりでびっくりしたにゃ。……なるほど。確かにボクはなんらかの意思に導かれてここにいるみたいですにゃ」
世羅たちはそれぞれのパートナーと合体している。数々の苦難を乗り越え、様々な技術と知識を手に入れ、比類無き強さを身に付けた状態で、基本に立ち戻ったイグニッション・オーバーブーストを実行した。神門がリルフィに方便を使ったのは、彼なりの優しさか、それとも――
「物理の世羅ちゃんと魔法の春日。ふたりが協力すれば砕けない悪などないと証明します」
「くらえっ! いつかびんがにやられて痛かったスタイリッシュ頭突きのせらバージョン!」
「口より先に手が出るあたしから見ても、世羅の動きは無茶苦茶……。難易度高いな!?」
「ボクが守護結界を展開しますにゃ。千歳さんは春日ちゃんの護衛メインで頼むのにゃ!」
ひとりでふたつ。ふたりでひとつ。さらに頼もしい仲間も一緒。恐れるものはなにもない。
世羅を先頭にして、四人の少女たちが絶対悪へ立ち向かう。
虚無の到来を防ぐため。
「私は世界を憎む。運命を恨み、苦痛を辛み、幸福を妬み、偽善を嫉み、安穏と過ごす家族を僻み、私を救わない世界を最初から無かったことにする」
「陳腐な表現だけど、私は神。抵抗は無駄よ」
運命の分岐
最終戦の目的はただひとつ。嫉妬感情体レヴィーの討伐です。
名古屋会場で行われるランブルののべ参加者数と後述のTwitterアンケート参加者に応じて、ミッションポイントが加算されます。
最終的なミッションポイントによって、2023年4月以降の物語に記憶を持ち越すメンバーが決定します。候補者は異世界からの来訪者である「リルフィ」、竜域(現代世界)を守護する「始まりの竜の巫女エア」、最も運命力が強いゼクス使いとされる「黒崎神門」の3名です。
ミッションポイントは下記の計算式で算出されます。
[会場のランブルのべ参加者数×5]
+
[TwitterアンケートAの参加者数]
+
[TwitterアンケートBの参加者数]
名古屋会場でのイベントと並行し、2023年2月23日(木祝)9時にZ/X公式アカウントから発信されるツイートアンケートに答えることでも、ミッションポイントの獲得が可能です。
アンケートはやはり記憶を持ち越せる人物を決定するためのもので、英雄達の戦記LV初戦~第四戦の主要人物8名が候補者となっています。
回答期限は16時00分までの7時間です。
また、「イース」はこれらの結果に関わらず記憶を持ち越します。
判定と展開 | 到達したミッションポイントに応じ、指定の人物が記憶を持ち越します。 |
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候補者 | ・2,000pt:リルフィ ・3,000pt:始まりの竜の巫女エア&ラストゼオレム ・4,000pt:黒崎神門&アレキサンダー |
判定と展開 | TwitterアンケートA「記憶を持ち越してほしい男性」 得票率上位2名(とパートナー)が記憶を持ち越します。 |
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候補者 | ・戦斗怜亜&ローレンシウム ・天王寺飛鳥&フィエリテ ・イリューダ・オロンド&マルディシオン(トネリ) ・剣淵相馬&フィーユ |
備考 | ・英雄達の戦記LV第三戦【大成功】特典として+1名されています。 |
判定と展開 | TwitterアンケートB「記憶を持ち越してほしい女性」 得票率上位1名(とパートナー)が記憶を持ち越します。 |
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候補者 | ・竜の姫君 ・上柚木綾瀬&ズィーガー ・百目鬼きさら&ヴェスパローゼ ・蝶ヶ崎ほのめ&迦陵頻伽 |
こちらの結果を受けまして、記憶を引き継ぐ男性キャラクターは「天王寺飛鳥」「剣淵相馬」となります。相馬とイリューダは小数点以下の僅差でした。
— Z/X(ゼクス)公式アカウント (@zxtcg) February 23, 2023
ご参加ありがとうございました! https://t.co/rpMwNkaSUv
こちらの結果を受けまして、記憶を引き継ぐ女性キャラクターは「上柚木綾瀬」となります。
— Z/X(ゼクス)公式アカウント (@zxtcg) February 23, 2023
ご参加ありがとうございました! https://t.co/Pexrx4azyg
全てを合計したミッションポイントは「3801pt」でした!
— Z/X(ゼクス)公式アカウント (@zxtcg) February 23, 2023
アンケートの三名とイースに加え、リルフィとエアも記憶引き継ぎ決定です。
新章の展開にご期待ください! https://t.co/gH64CUDFxP
記憶を持ち越す者は、イース、リルフィ、エア、飛鳥、綾瀬、相馬となります!