STORY

2024.06.24 【 2024.06.24 update

DramaCD ブックレットの裏の裏

NC DramaCD04
「てめぇらオレの邪魔すんな!」裏

2015.5.31 release

てめぇらオレの邪魔すんな!

「ご存知ですか?」

「無論、知っているでござるよ」

「さすがは忍です。耳が早いですね」

 八大龍王 優鉢羅と五頭領ウェアジャガーはそれぞれ、ホウライとライカンスロープの集落を束ねる立場にある。緑の世界では僅かに残された肥沃な土地を奪い合う間柄であったが、この時代へ移住して以降は友好的な交流を実現していた。

「念のため確認しますが、ウェアタイガーさんの件ですよ?」

「なんと。拙者、相馬殿が新たなおなごと、さっそく親睦を深めた件かと」

 剣淵相馬が百目鬼きさらに襲われた話は、さっそく真実とは異なる形で伝わろうとしていた。

「後ほど詳しく聞かせてください。話を戻しますが、ウェアタイガーさんが五頭領になられたそうです。ウェアジャガーさんは経緯を聞いていますか?」

 五頭領はライカンスロープの里でも特に勢力の大きな「五大里」を、力で束ねる者たちの総称である。かくいうウェアジャガーもそのひとりだった。

「タイガー殿はとうの昔から五頭領を名乗れる立場にあったものの、〝めんどくせぇ〟 と襲名を拒んでいたのでござるよ」

「よく心変わりしたものですね」

「北海道を巡る戦いでタイガー殿と肩を並べた者らから、五頭領の襲名を懇願されたそうでござるな。結果として敗北を喫したものの、改めてタイガー殿の統率力に惚れたのでござろう」

「なるほど。混乱の渦中にある昨今、優れた統率者が誕生するのは喜ばしいことです。さて、その北海道ですが……」

 神妙な面持ちで湯を汲み、ウェアジャガーのために茶をたて始める優鉢羅。

「赤の世界に奪われたことは、想像以上の痛手となりました」

「うむ。ホウライ、ライカンスロープ、そしてリーファー。三種族でそれなりに仲良くやってきたのに、ここへ来て厄介なことになったものでござるよ」

「新天地を追われた民が東北へ押し寄せたことで、かつてのように土地の奪い合いが起きています。弱者は出て行けと、声高に煽り立てる者がいます」

「ガイルタスク、でござるな?」

 ウェアジャガーが人差し指を立て、優鉢羅へ確認する。

「ご存知でしたか」

「いいや、心当たりを適当に言ってみただけでござるよ。五頭領ガイルタスク。卑劣な手段でりおんの父親を破り、五頭領の座を奪った黒いライオンのライカンスロープなのでござる。卑劣だろうと悪辣だろうと、実力のうちでござるがな」

「あの子にはそのような生い立ちがあったのですね。ならば、彼女が父親の無念を晴らし五頭領の座につけば、あるいは?」

「いやあ。拙者もそれとなく聞いてみたものの、拒まれてしまったでござるよ。なにより保護者殿の監視の目が厳しくてな」

「剣淵さん、ですか。いっそのこと彼が五頭領になれば……。いえ、さすがに冗談です」

「それは妙案でござるな! 狼のライカンスロープに変装した姿も、なかなか様になっていたでござるよ」

 茶をたてていた優鉢羅の手が、不意に止まる。

「後ほど詳しく聞かせてください」

ショートストーリーの関連人物

優鉢羅 古風で和風な緑の世界のゼクス、ホウライの頂点「八大龍王」のひとり。生真面目な淑女。龍王とその門下生たちは〝失われた強き力を求める〟和修吉派と、〝自然の流れに身を任せる〟優鉢羅派に二分しており、後者のリーダー格を務める。新時間軸では「九戴龍王」と呼ばれる。
ウェアジャガー 大自然の活力をものにした緑の世界のゼクス、ライカンスロープの頂点「五頭領」のひとり。冷静沈着な諜報活動を得意とするくノ一でもある。その生業から耳聡く、ゴシップネタに嬉々とする一面も。フィーユの古くからの友人。
ウェアタイガー 統率するより自ら最前線に立って戦うことを好むため、五頭領の座に就くことを長らく拒んでいた。過去に滅亡し、のちに再び建国されるホウライ優鉢羅派、ライカンスロープ、リーファーの共同集落「千年國」の実質代表者となる。
ガイルタスク 権力と暴力を振りかざす五頭領の闇。弱肉強食のライカンスロープとしては正しい姿だが、素行の悪さが目立つため、他種族も含めて緑の世界の大多数から疎まれている。フィーユとの決闘に敗れて以降は、完全に悪の道を進み始めた。
剣淵相馬 緑の世界のゼクス使い。自衛隊東北方面隊の出身だが、非人道的な人体実験の末に得た「樹人化」能力を暴走させて脱走。青の世界の闇商人(アルクトゥルス)へプラセクトを売却し、生計を立てるトレジャーハンターとなった。
フィーユ
(リオン)
相馬が仕掛けたプラセクト用のトラップに引っ掛かって以降、〝楽しいから〟とつきまとっている。ライオンのライカンスロープだが、猫のライカンスロープを自称していた。耳に触れた異性を番(つがい)とする誓いを立てている。
百目鬼きさら 緑の世界のゼクス使い。虫と魂を操作する能力に長ける。物心つかない頃にさらわれ、プラセクトに〝人間は悪い物の怪〟と教え込まれてきた。ホウライ、ライカンスロープ、リーファーに協力する相馬たちとは敵対する関係。

ショートストーリーの補足と解説

 緑の世界は大樹ユグドラシルの繁茂により、もはや人類は生存不可能な地と化しています。

 ただ樹木が生い茂っているだけじゃありません。バイオテロにより抵抗力の低い生物は物言わぬ植物となり、大樹ユグドラシルに取り込まれてしまうのです。大地の養分も大海の恵みも総て大樹の糧となります。

 補足すると、リーファーは〝植物の特性を得た人類〟の過程を経てから永い時間を掛けて植物と化す、ある意味勝ち組の種族だったりします。幼児退行という致命的なペナルティを課されますが。

 そのような極限状態でブラックポイントが開き、彼らは現代世界へ逃げ延びてきました。殺戮が目的ではないため、現代人に危害は加えません。昆虫並の知能しか持たないプラセクトを除いては――

 かつてはわずかな食料や土地を巡って対立したホウライとライカンスロープも、ともに移住してきたいまは手を取り合って生きています。

 ショートストーリーで会話している、優鉢羅(うっぱらか)とウェアジャガーもそんな関係です。

優鉢羅
ウェアジャガー

 緑の世界のブラックポイントは東北地方北部にあります。

 ですが、緑の世界の九州・高千穂地方にある「モウギ」へ到達するため、和修吉(ゔぁーすき)一派が策略を巡らせました。緑の世界の東北地方から九州地方まで、徒歩で踏破するのは不可能。そこで、赤の世界と緑の世界のブラックポイントを入れ替える荒業をやってのけたのです。

 彼らは現代世界の九州地方へ位相転換した緑の世界のブラックポイントからモウギへの接近を試みます。

 前後し、野心あふれる織田信長以下の武将ブレイバーたちが北海道を侵略。さらに、その北海道へ位相転換した赤の世界のブラックポイントから最強のギガンティック「暁十天」までもが襲来します。緑の世界勢力は大混乱に陥りました。

 黒崎神門、都城出雲、各務原あづみ、青葉千歳といった面々も一連の出来事に深く関わっています。

和修吉
ヘルソーン
ガイルタスク
イシュタル

 和修吉一派の目論見は、大樹を見守る者ピュアティの邪魔が入ったことで、失敗に終わりました。

 ですが、和修吉たちがモウギを諦めたわけではありません。東北へ戻ってから「龍王殿」を建国し、千歳を姫に祭り上げて建国された「千年國」と対立。さらに、大樹ユグドラシルを頂点とする「四皇蟲」ときさらたちも第三勢力として暴れました。ついでに「ガイルタスク」というライカンスロープの問題児も出てくる有様。

 そんなところへ、神々まで絡んできたのですから、混迷も混迷ですね。

 時系列はあとに記す、関連リンクからご確認ください。

 この機会にお詫びを……。たまに「龍王殿」を「竜王殿」と書き間違えます。同じく「八大龍王」を「八大竜王」と……。いずれも前者が正解です。申し訳ありません。

剣淵相馬
フィーユ

 外敵の脅威に晒され続ける千年國を支えたのが、相馬と千歳です。

 千歳については「DramaCD10」で詳しく触れます。

 相馬は悲惨な過去から独りを好む性格でしたが、元々は正義感から自衛官となった人物。弱者を見捨てるなどできず、信頼と人気を得てゆきます。いつしか弄られキャラの地位を獲得してしまうほどに……。

 緑の世界のために戦う彼は「樹人化」の副作用で眠りについてしまうのですが、目覚めた時にはライカンスロープのコスプレをさせられているのです。だいたい悪戯大好きリーファーの仕業です。

剣淵相馬
剣淵相馬

 さらには、黒の世界のルクスリアからもおちょくられる、相馬に幸あれ……。

関連リンク / 時系列順

 前後のショートストーリーです。

 今回は相馬とフィーユを中心に関連テキストを抽出しています。

 登場当初の相馬は「樹人化」でゼクスと直接渡り合える、ゼクス使いの中でも異色な存在でした。

 ただ、樹人化の解除直後は猛烈な眠気に襲われます。目覚めるまでの時間は徐々に長くなり、普段の姿も樹人化状態そっくりに変貌していきました。リーファーが「おやすみなさい」して完全に植物化してしまう現象を想起させた相馬は、〝人間〟ではなくなるかもしれない恐怖からフィーユを遠ざけます。

 フィーユもまた、相馬の足を引っ張る場面が多々ありました。出自を隠してきた後ろめたさも手伝い、徐々に自信を失ってゆきます。

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 半神ギルガメシュの討伐をきっかけに自暴自棄な考えを改め、フィーユともよりを戻した相馬。

 最初は敵として登場した百目鬼きさらが真っ当な〝人間〟になれるよう奔走します。それもこれもフィーユとの絆を再確認し、たとえ見た目がどうなろうと〝人間〟として生きていく決意を持てたからですね。

 さらには世羅と春日のお守り、さくらと八千代のサポートなど、何故か年下女子の面倒ばかり見るハメになります。今日も明日も彼は隣人たちに振り回されながら、不機嫌そうな顔で悪態をつきながら、〝なるようになるさ〟の信念とともにおせっかいを焼いて回ることでしょう。

 具体的な続きやさらなるスキマが気になる方は、「剣淵相馬」 の旧時間軸に格納されている「軌跡」をご参照ください。